しあわせの音
そのときの香奈の表情に、船越は胸を締め付けられた。
「もちろん教えますよ。松永さんの番号も教えてください」
日付が変わって午前二時半に帰庫した。
そんな形で香奈と知り合い、時々勤務中にファミリーレストランで食事をすることもあった。
「私と付き合ってください」
「もう、わたしなんて……」
「実際は三十歳でしたね。でも、二十代前半に見えますよ」
「皮肉が上手ですね」
「心からそう思いました。本当です。それに、雰囲気がいい。最高の女性だと思いますよ。本心です。せめて一度だけでも、デートをしてください」
予感がそれを云わせた。香奈は亡き妻美奈を、彷彿とさせたのだった。否、それ以上かも知れなかった。
「だめです」