しあわせの音
「やったー!お母さん……お金ちょうだい。船越さんのためにビールを買ってくるよ」と、芳樹。
「駄目駄目!飲んだら運転できなくなるよ」
そう云った船越は険しい表情である。
「いいわ。わたしが運転して行くから」
「いいのか?同乗指導のときは遠慮してたけど、きみの運転にケチをつけるぞ」
船越は笑っている。
「そのくらいでは音を挙げないわよ。だいいち、愛するひとを五人も乗せていたら、無謀な運転ができるわけないわ」
やがて、香ばしい油の香りが漂い始めると共に、フライを揚げる音が聞こえ始めた。その音は、何年も聞くことのなかった幸せの音だと、船越は思った。
了