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第六章四話 決意の涙

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一方、西王隊長率いる5人は歩いていた。
チェルグは足を止めて皆を呼び止めた。
「ねぇ、みんな!」
「どうしたんだ?チェルグ。何か見つけたのか?」
「ううん・・・・違うよ・・・・」
すると霜山は首をかしげて怪訝そうに言った。
「じゃあ、なんなんだよ。」
チェルグは勇気を出して告げた。
「そろそろ降参してくれない?」
その言葉に一同は驚愕した。
「チェルグ?よく、聞こえなかったんだが・・・・もう一度」
「だから、降参してほしい。」
チェルグは震えながら銃を突きつけた。
咄嗟に4人も武器を出した。
「もう何月だと思う?連合軍がこのフィリピンを制圧して何ヶ月経ったと思う?いいかげん、気付いてよ!君たちに勝ち目なんてないんだよ!」
すると須郷が怒りながら
「俺達は神風日本国なんだぞ!これぐらい」
「これぐらいって、短期間にこんだけ兵士が死んで何が神風だ!何が日本国だ!お前達は引き際というのを知らないのか!!」
「うるさい!俺達は・・・・俺達は最後の一人になるまで戦って死ぬ!それが大和魂だ!」
「そんなの魂じゃない!君達はそれを誇りだと言うんだろうけど、おれたちからしたら、ただの犬死にだ!」
「なんだと!チェルグ!いくら貴様でもそれ以上の愚行はゆるさねえぞ!」
チェルグに飛び掛った霜山と須郷は口論をしながら殴り合っていた。
「やっやめて!皆!あっ!」
国重は止めようとするが西王隊長に止められた。
「隊長!」
「やらしておけ。あいつらだって本当はわかっているんだ・・・・」
「・・・・・・」
そして散々殴り合って罵倒しあってお互い疲れ始めた頃
「俺だって・・・・ハァハァ・・・・本当は知ってた・・・・・おしまい・・・ハァハァ・・・かもって。」
霜山がつぶやいた。
「でも・・・・でもっ!負けるなんて・・・認めたくない!!それじゃ・・・それじゃ・・・死んでいった仲間達にどう顔向けをしたらいいのか!!」
ワッと霜山は泣き、須郷は静かに抱き寄せた。
「チェルグ・・・・お前の言う通りってことはイヤでもわかる。だが、どこかでまだ逆転を狙ってる心もあった。だが・・・・もう潮時なのかもしれないな。」
そう言って西王隊長を見つめた。
「俺・・・君たちと会う前にもたくさんの日本の兵士を見てきた。皆、皆、こっちに突進してきて・・・・それで・・・・まだ子供なのに・・・・戦場に出てきて・・・・
エッグ・・・何も持たずに走ってきたかと思ったら・・・・グスッ・・・身体に手榴弾巻いて・・・・そして爆発ッして・・・・ヒッグ・・・・堪えられなかった・・・・」
涙声になりながらもチェルグは続けた。
「イギリスの・・・・兵士の誰かが言ってた・・・・負け方を知らないのかって・・・・俺も・・・・思った・・・・グスッ・・君たちと一緒にいて思い知った・・・
だって・・・グス・・だって・・・・皆、自分のことを二の次にして戦ってるからだって!全ては国のために!全ては国のために!死んでいった兵士達は皆こう言ってた
【大日本帝国万歳!】【天皇陛下万歳!】皆それを第一にして戦ってるから・・・・戦うから・・・・」
とうとうチェルグは崩れ落ちた。
国重はチェルグを支えようと側まで寄った。
チェルグは青ざめた顔をして
「ねぇ・・・・君達は本当に《人間として》生きてるの?」
その言葉に誰しも黙らざるをえなかった。

自分達は今までどうやって生きてきた?
戦争する前の自分は?
赤紙が来る前までの自分は?
 戦場に行くまでの自分は?
一体――――――どうやって生きていたんだろう。

黙ったまま何も言わない中、西王は静かに言った。
「私は・・・・戦争する前の時代を懐かしく思うことをずっと忘れていたのかもしれない。国が脱亜細亜を唱え、欧州の傀儡国家になることを拒み、そのためにはこの国【自身】が強くならないといけない。そのためだったら争いも厭わない。いつしかそんな思想が当たり前のようになっていた。今思えば、その時からすでに私達は人間として生きるのをやめたのだろうな。」
すると、チェルグは
「だったらさ・・・・これからは人間として・・・・生きようよ・・・だって・・・・悲しすぎるよ。」
ポロポロと涙を流しながら言った。
「だからお願い・・・・元の・・・優しい日本人に・・・戻って・・・・降伏して・・・・」
その言葉に5人は抱き合いながら涙を流した。
作品名:第六章四話 決意の涙 作家名:sanze1991