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DAEMON BOY

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「俺は行かねぇぞ。自由参加って言ったって、わざわざ休日潰してまで勉強なんか誰がやるか。だったらじーさんと稽古してる方が百倍マシだ」

「うむ、そうか。では夏目に「休み潰してまで学校行くとか馬鹿じゃねぇの?」と剣真が言っておったと伝えておこうかの」

「おい、ちょっと待て!」

剣真は急いで劉彩を捕まえようと、手を伸ばした。だが、伸ばされた手は空しく空を掴んだだけだった。

劉彩は「ほっほっほっほっほっほ!!」と笑いながら、すごい勢いでどこかに走り去って行った。逃げ足の速さも、尋常ではない。おまけに、お茶の入った湯呑を持っているというのに、まったく溢した後がない。

あんなじいさん相手に、どう抵抗しろと?

剣真はため息をつき、履いていた運動靴を脱ぐと家の中に上がった。もはやあのサイボーグじじいを追いかけるのは無理である。それに、どうせ捕まえたところで結局、結果は変わらないのだ。今はお茶でも呑んで、優雅な休日の午後を楽しむことにしよう。

入り組んだ迷路のような廊下を進み、目的の台所についた。ここもそうだが、この家の床は全面板の間。ワックスなどの加工は入れられておらず、完全に木材のみで造られている。壁もすべて土壁で、本当に江戸時代の農家のような家である。

台所に入ると、反対側の壁に設置された冷蔵庫を目指す。周りに家電機器が殆んどないため、一つだけ孤立したように堂々と置かれた冷蔵庫は、恐ろしく目立っている。だが、その横にはさらに目立つものがある。


それは釜戸である。高さ150㎝程の、土で作られた本物の調理用の釜戸である。ガスコンロやIHにすればいい物を、劉彩は「金が無駄だ」とか「こっちの方が風情がでる」などと言って、作り変えようとしない。おかげで、火を使った調理の時は本当に苦労するのである。料理をするのは剣真ではないが、薪を持ってきて火を起こすのは剣真の仕事である。それが面倒で仕方ないのだ。

他にも、トイレは水を流す設備も無く、ただ深い穴がいているだけ。流石に水道はあるが、どういう理由かトイレには水が回っていない。

電気も通っていない場所が幾つかあり、そんな場所は照明も無く、明かりは蝋燭で確保しなければならない。だが、なんといっても一番面倒なのが、風呂である。

風呂場には見たことも無いほど大きな木桶が一つ置かれ、その下に鉄の鍋が置かれている。そして肝心のお湯を沸かす方法は、薪で起こした火である。

つまり、剣真達は風呂に入るために一々火を起こし、長い竹の筒でフゥーフゥーと息を吹きかけているのである。そんな光景は、今ではもう殆んど見られないだろう。

こんな場所で、剣真は10年間も暮らしているのである。それも、あの劉彩と一緒に…

「これは、俺は不幸だって思ってもいいんじゃないか?」

苦笑してそんな事を呟きながら、剣真は冷蔵庫を開けた。中を見て、やはり顔をしかめてしまう。冷蔵庫の中には、これでもかというほどの漬物や納豆などの発酵食品が詰め込まれている。すべて、劉彩が詰め込んだものだ。

剣真はその中から何とかお茶の入ったボトルを見つけ出し、そのまま口を開けてラッパ飲みし始めた。

ブルルルルルルルルルルルルルッ

ポケット中に入ったスマートフォンが、振動しながら着信音をたてている。お茶のボトルを置き、取り出して確認してみると、メールが一件入っていた。

件名は無し。アドレスも登録されていない、見知らぬものだ。一体なんだろうと思い、開いてみた。そこには、単語が一つだけ書かれていた。




『落ちる』




「なんだこれ」とつぶやく前に、剣真の視界は闇に包まれた。
作品名:DAEMON BOY 作家名:悪楽