アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27
運転するのは優子です。
伊江島は、見渡すかぎりになだらかな平坦地が続きます
その中心部に向かって、わずかな傾きを見せながら、
どこまでも果てしなく、農地が続いています。
最初のうちに目に入るのは、野菜や、パイナップルの畑です。
内部へ進むにつれて、ところどころにサトウキビ畑が交じってきました。
緑がどこまでも鮮やかに広がっていくこうした畑の様子と、
白い波が砕ける紺碧の海は、どう見ても、
平和そのものの海南の小島のように見えます。
やがてはるか彼方に、旧日本軍の飛行場跡が見えてきました。
それとともに、今までの畑の様子が極端に変わりはじめます。
野菜の姿が消えて、サトウキビの畑ばかりが目につくようになります。
道路の両脇には、英語と日本語で、
「軍用地につきこの先、立ち入り禁止」の
大きな看板が目立ってきます。
「サトウキビ畑が、軍用地?」
「言ったでしょ。島の西半分は軍用地。
おじいの言っていた、銃とブルドーザーで盗られた土地よ。
おとうの土地もこの先にある。
全部、先祖からの土地なのに、今では全部が軍用地さ。
良く見ておいて頂戴、群馬。これが伊江島の現実の姿なのよ。
これが、沖縄の本当の姿なのさ。」
驚いたことに、サトウキビ畑の真ん中を平然として
鉄条網が走っています。
やがて道路が完全に封鎖をされていて場所へ出ました。
申し訳程度のようの、小さなゲートがぽっかりと開いています。
「ここから先が、歩きだよ」
車から降りた優子は、慣れた手つきで
ゲートにからんでいる鎖を外すと、その中に身体を滑り込ませました。
「ここから先が、本当の軍用地。
ここまでの警告や看板は、ただ注意しろというだけの意味です。
このゲートから先は、命の保証はしませんという、
正真正銘の、本当の危険区域だよ。」
説明をしながら優子は、もう
うっそうとして立ちあがっているサトウキビの
幹を左右にかきわけています。
隙間を作りだした瞬間に、奥へ向かって進みはじめました。
あらためて見ると、その足元にはけもの道のような細い空間があります。
人が歩いた形跡が残されていることに、初めて気が付きました。
サトウキビは、人の背丈をはるかに超えています。
優子は小高い方向へ向かって、サトウキビをかき分けながら進みます。
この先に入ると命の保証がない?・・・
なんのことだろうと考えていたら
突然サトウキビ畑が途切れて、視界が開けました。
この一帯だけが、綺麗にサトウキビが刈り倒されています。
「監視のために、復帰協がつくった空間さ」
到着したのは、米軍の演習状況を記録するために、
復帰協(沖縄県祖国復帰協議会)が設置した、
監視のための空間です。
監視小屋といっても、射爆場の標的を見下おろすことが
できるだけの高台に、四方に柱を立てて、簡単に屋根だけを
のせてつくっただけの建物です。
今にも飛んでしまいそうな、
ほったて小屋そのものです。
作品名:アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27 作家名:落合順平