アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27
「お~い、婿どのは、おるか~」
約束通り、昼間会った(近所の)おじさんが、
獲れた魚と泡盛をぶらさげて、暗くなる前に
おバァの店にやってきました。
少し遅れて、おじさんに呼びつけられた海人(ウミンチュー)の
2人もやってきました。
ちいさな食堂で、もてなしの宴が始まりました。
「米軍たちは、有る日、突然やってきた」
お前らも良く聞いておけ、と海人2人を指さしながら
ねじり鉢巻をしたおじさんが、
泡盛をぐいと飲みほしてから古い話をきりだしました。
「上陸用の船からは、
たくさんの米軍兵とブルドーザーが降りてきた。
南の海岸から上陸してきて、島の西にあった日本軍の飛行場へ向った。
それから、あっというまに基地を作り始めた。
それだけじゃないぞ。
海岸からは、来る日も来る日も米兵と、
ブルドーザ―が上陸をした。
この島が、銃とブルドーザ―でいっぱいになった。
沖縄が日本から切り離されて、アメリカ軍の占領地にかわったんだ。
それからだ、この島がいっぺんに変わり始めた。
わしらが耕作をしている畑に、アメリカ軍が突然やって来て、
今日からここは、基地と軍事施設になるから出ていけと威張りだす。
ちっとやそっとの話じゃないぞ。
あいつらときたら、銃を片手に、次から次に土地と畑を取り上げる。
島じゅうが、あっというまに鉄条網だらけになった。
気がつけば、島の半分が米軍基地だ。
それこそが、あっというまの出来事だった」
おい呑め、婿どのと、
一気に泡盛を注ぎ足してから、おじさんはその続きを語ります。
「朝鮮動乱が始まると、
またまた軍事基地が拡大をされた。
ベトナム戦争が始まれば、
ここは軍事演習場だと、有無をいわさずまた取り上げに来やがった。
野菜の植わった畑だろうが、
サトウキビ畑だろうが、片っ端から奪いに来た。
銃とブルドーザーで、アメリカのあいつらはやりたい放題だ。
これで、いったいどこに平和がある?
太平洋戦争は、とっくの昔に終わったというのに、
ここではまだ、毎日が戦争が続いたまんまさ。
銃とブルドーザーで、絶対に平和なんかが来るものか!
そう思うだろ、なぁ、
内地から来た、婿どの!」
まったくだと、心底思いました。
熱く更けていく伊江島での、上陸一日目の夜のことです。
作品名:アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27 作家名:落合順平