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アイラブ桐生・第2部 第3章 26~27

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 沖縄本島北部の、本部港から連絡船に乗りました。
瀬底島を左手に見て、海上にひらりと浮かんでいる小さな
水納島を眺めているうちに、
30分ほどで、優子の実家が有る伊江島に到着をします。
連絡船を降りて桟橋の近くの歩いていると、
水面の小舟から声がかかりました。


 「お~い、優子でねえか。
 いつ戻った。
 その連れはなんだ、亭主か・・
 バァちゃんが見たら、さぞかしよろこぶぞ~
 ちょっとこのあたりでは見かけない、よさそうな男だのう。
 見かけない顔だが、内地のもんか?」


 「おじいちやん、ただいま。元気そうだわねぇ、いつ見ても。
 あいかわらず、口だけは悪いけど・・・・
 私のお客さんよ、
 伊江島を案内してあげるの」



 「そうか、それなら、タッチューがいいぞ。
 あそこからなら、360度を見渡せる」

 「うん、ありがとう、後で行ってみる!」

 「本当は、都会から連れて来た、お前の亭主じゃろう?
 本当に違うのか・・ばぁさんにいっておけ、あとで魚を届けると。
 お~い、そこのご亭主、酒は呑めるのかぁ。」


 違う、違うとうれしそうに手を振りながら、
近所のおじさんでいつも出会ってもああなのよ、と、
ケラケラと優子が笑っています。
この旅で優子が初めて見せる、屈託のない柔らかい笑顔です。
生まれ育ったところに戻ってくると、人は心がなごみます。
優子の心にも、なにかほっとしたものが生まれてきたようです。



 「タッチューって?」

 「伊江島のシンボルみたいな山のこと。
 ほら、本部港の桟橋からも良く見えていたでしょう。
 洋上にぽかんと浮かんでいて、尖ったように見えていた山のこと。
 後で行こう、眺めはいいわよ~、最高だから!」



 やはり、テンションはあがっています。
発着桟橋から5分も行かないうちに、もう優子が小走りになりました。
昂ぶってきた気持ちを抑えきれなくなってきて、
最後は脱兎のように、元気よく走りだしてしまいます。


 「おばぁ~ただいま!」



 優子がとびこんでいったのは、お土産屋さんのような小さな食堂です。
優子がおばァの首にかじりついたまま、涙をこぼして笑っています・・・・



 「本当にさぁ、
 この子ったら、なんの前触れもなしに、
 突然に帰ってくるんだから~」



 受け止めているおばぁの顔も嬉しそうです。
その訳は、すぐに分かりました。
射爆場の中にあるサトウキビ畑で、実践訓練中の流れ弾に当たり、
優子の父親は10年前に亡くなりました。
その後、母親は本島へわたり、水商売だけで優子の学費を稼いでいます。
実家にのこったのは、おばぁただ一人になってしまいました。