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運命の彼方

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 「そうよ、私の命より大切な人は、お兄さんよ」
 「目の手術を断ったのも」
 「そうよ」
 「それほどまで僕のことを」      
 幸樹は泣きたいほど感激した。
 「ねえ、今日一日、私は鷺草の少女で居たいわ」
 「どうして?」
 「だって、大人の和泉舞は、一杯、お兄さんに優しくされたり愛され、大阪城では食事のあとで、楽しく歌ったり踊ったりしたでしょう。それに比べ、鷺草舞は、わずか三時間ほどしか一緒に居られなかったのよ。不公平でしょう」
 「じゃあ、あの日と同じように」
 「嫌よ」
 舞がすねた振りをする。
 「どうして?」
 「大嫌いだからよ」
 「なぜ、嫌いなの」
 「だって、お兄さんが和泉舞さんを死ぬほど愛していると言ったんだもの」
 「それがなにか」             
 幸樹が楽しそうに尋ねる。
 「とにかく、私が鷺草舞のときは、和泉舞に優しくしないでね」
 「子供の舞さんの要望に反して悪いけど、明日の朝、和泉家に行き、和泉舞さんに結婚を申し込みます」
 「嬉しい。でも、なぜ、明日なの?」
 「今、すぐにでも申し込みたいのですが、今日、和泉舞さんは居ません。居るのは鷺草舞さんなので、申し見込めないのです」
 「なぜ、鷺草舞は、今、結婚を申し込まれたいと思っています」
 舞が哀しげに尋ねた。
 「鷺草舞さんは未成年だから」
 「そうでしたわね。今日の私は十二歳の鷺草舞でした。悲しいけど、大人に成れる明日を待ちます」
 舞は、幸樹の手をとり歩きだした。
 「待ってください。少女の舞さん」
 「早く大人の和泉舞に戻りたいので、すぐ、帰りましょう」
 舞は幸樹の手を離し、一人で歩き始めたが、砂に足を取られて倒れた。 
 「一人で歩くから倒れるのです、そんなに早く帰りたいのなら、僕が背負います」
 「私は少女の鷺草舞だから、あの日のように、一人で歩きます」
 言った途端、また、倒れた。
 「僕は、ずっと今日まで、子供の舞さんを背負って帰ればよかったのにと、後悔していたのです。背負われるのが嫌なら、無理にも抱いて帰ります」
 幸樹は、舞を抱いて歩きだした。           
 「そうだ、毎年の六月十五日は、鷺草舞の日とし、和泉舞は鷺草舞に変身し、毎年、鷺草の海へ来て、この十年を取り戻しましょう」
 「毎年、一日だけ、少女の鷺草舞に戻れるのね。嬉しい」
 十年目、舞に真実の幸せが訪れた。
 舞を抱いて歩く幸樹の姿は幸せに満ち溢れ、舞の幸せそうな声が聞こえてくる。
 二人の幸せを見守るかのように、美しい夕日が優しく見送っていた。





















作品名:運命の彼方 作家名:さいし