ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半)
第二章 時を超えた女性
夜。
ガツガツガツガツ・・・・・・。
「相当お腹がすいてたんだなぁ~」と、私服に着替えた光大は思う。
醸し出している雰囲気とは裏腹に、助けた女性がものすごいスピードで光大の用意したものを食べるからだ。
あの妙な戦いのあと倒れてしまったのはそれが原因だった。倒れた時に、「た、食べもの・・・・・・」という、極々小さな声音を聞き逃さなかった光大は、面倒くさがるも、彼女を自分の家まで運んだのだった。
菅原家は、宮島水族館跡の先にある。二階建ての、昭和を感じさせる古ぼけた木の家だ。幸い、今日は家には誰もいない。母親は、宮島にある病院の看護師をしており、深夜まで出勤しているからだ。
彼女の大食いっぷりを見ると、あの事件は本当に、現実にあったことなんだな、と実感した。本当は認めたくないけど。
「ふぅ~。ご馳走、感謝する」
彼女は、満足そうに光大を微笑む。
「ま、まぁ、それはいいんだけど・・・・・・」
美しすぎる彼女の表情に動揺しているからなのか(単に勇気がないだけなのか)、イマイチこちらから話題を振る勇気がでない。
「質問があるなら、いくらでも答えてやるぞ」
そんな彼の気持ちを見透かしたように、女性は答える。
「そ、それなら・・・・・・あんたは何者で、一体どこから来たんだ?」
頭の中でパッと出た質問を光大は彼女に訊ねる。
彼女はフッ、と微笑みながら、
「単刀直入だな。まあ、いい。それよりもまずは、君の名前を教えてもらえないか?」
と訊き返してくる。
「す、菅原光大」
「そう、コータと言うのか。・・・・・・ん? 菅原、ということは―」
「ああ。一応、宮島の危機を天神様の秘術で救った、菅原道真が先祖にあたるよ。亡くなったじいちゃんが言ってた」
「おお、そうなのか! 世間狭しとはまさにこのことだな! あ・・・・・・すまぬ。私もそういう先祖がいるものだから、つい」
「は、はぁ・・・・・・」
この人は興味を示したらとことん喰いついて来るんだなと、光大は思った。
女性は、話題を元に戻す。彼女は立ち上がり、机をはさんで、光大を見つめる。
「私の素性を知りたいんだったな。私の名前は佐伯乙姫(さえきおとめ)だ。乙姫と書いて、おとめ、だ。そこんところよろしく。ああ、乙姫と呼んで構わないよ」
「わ、分かった。よろしく、乙姫」
なんだ、男のようなクールな喋りかたの割には、容姿に合った可愛らしい名前じゃないかと、光大は安心する。
響子とか深雪とかエリカとか、いかにも『お嬢様』と呼びそうな名前とこの口調と、戦う?こともできるんだから、これがミックスされたら、貴族と庶民の差だ。まず、喋れないだろうという自信が光大にはあった。
―これなら気楽に話せる。
「で、乙姫はどこから来たんだ?」
自分はどんな答えでも受け入れますよと言わんばかりの興味津々な素振りで、机をはさんで立っている彼女に顔をのぞかせる。
乙姫は真剣な眼差しでこちらを見つめる。
「信じられないかもしれんが・・・・・・言うぞ」
「うん」
もう受け入れることにしたんだ、もったいぶらないでとにかく言っちゃえよ、と心の中で光大は乙姫に呼びかける。
「―五〇年後の未来からだ」
「へぇ~そうなんだ。五〇年後の未来から来たんだ~。そうかぁ~未来か~」
ん? 未来・・・・・・みらい・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・。
―!!
「み、みらいぃぃぃぃぃっ!?」
光大は、悲鳴のように高い声色で叫ぶ。
アニメ、マンガのような展開を自分が身をもって体験するとは・・・・・・。
受け入れようと努力しているとはいえ、あまりにも非現実的。俺は天国にいるのか? いや、そんなことはない。
だったら―
「証拠、証拠はあるのか!?」
―刑事ドラマのように、それを問い詰めるしかない。
花楓は顎に手を当てて、
「ふむ、証拠か。だったら―」
花楓は、左腕に身に着けている青い球体浮き出ているものを外し、青い球体にあるボタンを押す。
ピーッ、という音が鳴る。すると、何もない壁に映像が流れる。
「!」
そこにある映像は、山のように大きなガラス張りのビルがそびえ立ち、自然が失われている。街並みもガラスのようなものが道路に敷かれている。まさに、メディア芸術でしか成しえない未来都市の構図のようだ。
しかし、よく見ると監獄島のような場所と化していた。
ビルディング・マウンテンは、廃墟同然の惨状になっているし、街は炎に包まれている場所もあり、島の周囲の海は氷結しているし、何よりも気持ち悪いのは、地球上ではありえない紫の空。
そしてさらに、
「あ、あれは!」
家と同じくらい身の丈の高さを誇る、頭の左右に二本角がある―お伽噺で出てくる鬼が道中を徘徊している。
「まさか」
思わず、乙姫の方へと振り向く光大。
乙姫は頷き、腕組みしながら、
「ああ。先ほどのカマイタチと同じだ。こいつらは通常、人間の目では視えない、虚ろな魂が融合したアヤカシ―私たち未来人は、こいつらを超常異霊(ポルターガイスト)と呼んでいる」
「ポ、ポルターガイスト・・・・・・」
「人間にとっては超常現象に見えてしまうが、霊とか視えるように開発した、机に置いてある この機械―異霊目視(インスペクト)で、こいつらが宮島のあらゆる場所で暴れていることが分かったんだ。おかげで人間たちは地下で隠れ住むしかない状況にになったんだ」
「・・・・・・」
もう一度、光大は机に置いてあるインスペクトが映し出した、見たくもない映像を見つめる。
こ、こんなのが未来には存在するのか、光大はただ呆然と映像を見続けた。
体を、震わせながら・・・・・・。
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(後半) 作家名:永山あゆむ