ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半)
プロローグ 旅立ち
―二〇八〇年。
日本のとある島で、ありえない超常現象が発生し、滅亡の危機へと瀕していた。
島である割には、山のようにビルが建っており、自然はごく一部しかない。
人の影はなく、廃墟と化している。黒いコンクリートのタイルが敷かれている港の街並みも炎につつまれ、人が住める環境ではない。
島の周囲の海水も氷結しており、島の象徴である、紅く目立った鳥居までも・・・・・・。
もはや、別世界として切り離されたこの島は、口で言い争うことしかできない、政府の働きかけもなく、死滅の道を辿っているのである。
しかし、
「お嬢様、本当によろしいのですか?」
「ああ。覚悟の上だ」
超常現象で危険なこの場所を、コツコツと音を立てて歩く者たちがいる。一人は黒のスーツと紫のネクタイを身に着けた、いかにも執事と呼べる年老いた老父、もう一人は腰まで届く長いストレートの黒髪と華奢な体にピッタリなタイトスカートを履いた、輝かしい美貌を放つ、二〇歳くらいのクールな女性。
火の弾が二人の方へと襲ってくる。
「ひゃあ!」
執事は絶叫し、女性の後ろに隠れ、膝をガクガクと震わせる。
「案ずるな」
こんな現象が起きる場所で、老父のように恐怖に怯えることが当たり前な場所だというのに、女性は冷静に、円形の小さな機械を火の弾に向ける。
「はあぁぁ!」
すると、寸前のところで、女性たちの周りには何もないのだが、何かにぶつかったように火の弾は二つに分裂し、左右へ弾かれる。
「おお・・・・・・」
執事は思わず、感嘆の声をあげる。
「ふむ。実験成功だな」
手にした小さな機械を見て、女性は微笑む。
「これで準備万端だな。行くぞ」
二人は今の―未来技術が発展し、実用化している時代に似合わない、ゴツゴツした白い石で造られた階段を上っていき、三〇〇メートルくらいの高さのビルへと着く。もちろん、ここにも人は誰もいない。
そこから眺める景色は、天国と地獄をはっきりと区別していた。
手に届きそうで届かない本州の空は、澄みわたっており、キラキラしている。しかし、この場所は毒が充満しているかのような紫の空。
そう表現するのが、最適と言えよう。
(あの澄んだ空を取り戻すために、私は戦うんだ。絶対に、取り戻して見せる!)
本州の空を見つめながら、この空に再び光を取り戻そうと、改めて女性は決意を固めた。
作品名:ヘリテイジ・セイヴァーズ-未来から来た先導者-(前半) 作家名:永山あゆむ