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【跡地3】湯煙旅情幽霊事件簿

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「火を拝むと書いて、拝火教。要は、火を神様の類として崇める宗教ね。この類の宗教を火炎崇拝って言って、まあアニミズム方式の宗教の一つよ。でね、火が何故神格化されるかって言うと、例えば、火は人類を飛躍的に進歩させたし、何より火で汚れたものを浄化してしまう、という考え方があるからなの」
「お焚き上げ、とか言いますしね……」
「まあ、後は本能的な問題。闇を怖がる人間が、火によってその闇を照らすことができた、ということもあるわね」
 火を上手く扱うことができたから、人は進歩できたという考え方は確かに存在する。前提に道具を使うこと、そしてその次に火を扱うことを人間は覚えて、今日に至っている。
「さっきアニミズムに触れたけど、これって知ってる?」
 普通の女子中学生が知る言葉ではない。まあ、ヤマタノオロチの属性が水だと答えた時点でちょっと私は異常かもしれない。それも貴幸と友人のアマミさんの所為だ。彼らの所為で妙にオカルトやその辺の造詣が深くなっている気がする。
「アニミズムってのは、森羅万象万物に魂が宿るって考え方でさ。日本語じゃ精霊崇拝って言うね。ツクモガミとか、あとは言霊とかがこれに属するのよ。神道の場合は、このアニミズムの他にも自然崇拝やら祖先崇拝やら、果てはシャーマニズムまで内包している所為でもう何でもありの状態なわけ」
 そういえば、聞いたことがある。日本に様々な宗教が根付いているのは、こういった神道の何でも飲み込んでしまう貪欲さが一因にあるのだとか。
「つまるところ、神様ってのは意外と身近にいるってわけ」
 まあ、確かに神道の教えに従えば、そう言った結論に至るのも分かる。
 だけれど、それが本当なのかは分からない。
「そんなの、人間の勝手でしょう。勝手に神格化して、勝手に魔物扱い。そういう意味では、神様がいるのかなんてやっぱり分かりません」
「まあ、確かにその通りだわ。その辺は否定しないし、できない。結局人間がどう思うかなんて、神様には関係ないのかもね」
 そう言って、女は肩まで湯に浸かる。肩が冷えたのだろう。
 もしかしたらそのうち幽霊や神様が科学で証明されるのかもしれない。もしかしたら、魂や神様すらも、科学で丸裸にされるのかもしれない。そう考えると、なんと夢のない話かと思ってしまう。
「――人間、というか生き物全般に言えることだけど、それらって三次元の存在なの。三次元は幅、奥行き、高さから構成されている。それに時間が加わったら、四次元になるって言われているわね。
 三次元の物体は四次元の物体を観測することはできない。そもそも時間の要素を含んでいる物体は三次元には存在しないのだから、本来なら観測することができない。時間の要素を含んでいないのだから万物の最小単位である粒子以外の三次元の物体には、永遠の時を過ごすことができない。そう考えたら、ある推測が立てられる」
「どういうことですか?」
「いわゆる神様が四次元に位置する存在だとしたら?」
「そんなの、出鱈目……」
 理論もへったくれもない。ただの空想の類だ。
「まあ、確かにこれは実証されてないわね。だけど、神様や幽霊には寿命が存在しない。神様はいわずもがな、ある仮説では幽霊は死後まだ個が強い霊を死霊と呼び、それらは時間が経つと共に個性が薄れていき、やがて祖霊と化すと言われているわ。
 そして、祖霊はやがて祖神として奉られる。つまるところ、人が死ぬということは次元を一つ超越することに近いのよ」
「そんなの……」
 理屈になっていない。ただの推測だ。だけど、その女の眼はそれを真実だと語っていた。
 死んで神になる……滅茶苦茶な理論だ。だけど、それを否定できない。事実として、あちらこちらに英霊が祭られる寺院が存在する。
「ネイティヴ・アメリカンの間で信仰されていたグレートスピリッツ。これもまた、祖神の類ね。これもまた、神と幽霊が近い存在だと証明しているわ」
「人が神様になる? そんなおこがましい話、あるわけ……」
「あら、そうかしら。天皇の祖神は天照大神という話だわ。それって、神様でしょ?」
 それを持ち出すのはちょっとずるい。
 ――ふと、女の姿が揺らぐ。
 そういえば、この女は何者なのだ?
 先ほどまで気配がなかったのに、湯気の中から急に現われた。だから私は油断して歌ってしまった。
 そして、この温泉には幽霊が出るという噂もある。
 おかしい。おかしいことだらけだ。
「あ……」
 やばい、頭がくらくらしてきた。
 身体が湯の中に沈んで行く。
「それに、人が神様になれるって、素敵なことよね……」
 女の笑顔を最後に、私の意識は途切れてしまった。


「……恥ずかしいヤツだな」
 貴幸はそう言った。
「面目ない……」
 湯アタリしてしまった。そりゃもう、完璧なまでに。
 酷い状態だったらしい。私が湯の中に倒れたのにびっくりして、一緒に入っていた女の人が私を抱えて脱衣所まで連れて行って、そのあと貴幸らを呼びに裸で飛び出してしまったという。
 その女の人は、姿を見せていない。というか、恥ずかしくて顔を見せられないと言っていたとか。その代わりに、枕元に牛乳が置いてあった。
「後であの人のところにお礼に行かなくちゃな。湯冷めしちゃってくしゃみしてたぞ」
 あっちもあっちで大概間抜けな様子だ。
 しかしまあ、助けてもらったのはありがたい。しっかりとお礼と文句を言おうと思う。
 それに、あちらも話の続きをしたいのだろうし。反論だってある。
 とりあえずは、次元の四つ目は時間であるとは限らないということを――。