電車で会った魔女
勤の帰りに、電車内に足を踏み入れた途端、思いがけないものが目に入った。竹の庭箒である。その日オレは、高校卒業以来10年ぶりに会うという友だちと一杯飲んだ帰りだった。それにしても、幻覚が見える程には酔ってはいなかった。電車の座席は塞がっていて、数人が立っている。
魅入られたように、オレはその前に立っていた。竹箒を持っていたのは若い女性である。座席のドア付近一番端に座り、ごく自然な感じで左手に竹箒を立てて持っているのだった。オレが目の前に立った気配に、女は顔を上げた。電車に乗った時は箒に気を取られ、顔をよく見ていなかったが、小さな顔に大きな目が目立つ可愛い女性だった。
かなり興味津々という顔をしていたのだろうオレの視線に、彼女が微笑みをかえしてきた。普段ならそれで、てれてしまう所だったが、アルコールが入っていたこともあって、オレはすぐに言葉をかけた。
「魔女ですか?」
「はい、修行中です」
なんのためらいもなく魔女は答えて、さらに魅力的な笑みをみせた。
「この箒に乗るんですか?」
「出来ればね」
「はあ、まだ飛べないんだ」
魔女は、笑みを浮かべたまま「はい」と言った。
駅に着いたので降りる人、乗る人の移動が始まった。運良く魔女の隣が空いた。オレはすぐにその席に座った。
「魔女の学校とかがあるわけですか?」
「いいえ、独学で」と答えた魔女の表情が少し自信なげな気がした。
「それは大変ですねえ。秘伝の書物などがあるわけ?」
疑問にいちいち『ですか』をつけるのが面倒になり、もう友だちのように話しかけた。たぶんオレのほうが年上だろうと思いながら。
「それは他人には言えません」
もう笑みは見られなかったが、真面目な顔と口調で魔女は答えた。
魅入られたように、オレはその前に立っていた。竹箒を持っていたのは若い女性である。座席のドア付近一番端に座り、ごく自然な感じで左手に竹箒を立てて持っているのだった。オレが目の前に立った気配に、女は顔を上げた。電車に乗った時は箒に気を取られ、顔をよく見ていなかったが、小さな顔に大きな目が目立つ可愛い女性だった。
かなり興味津々という顔をしていたのだろうオレの視線に、彼女が微笑みをかえしてきた。普段ならそれで、てれてしまう所だったが、アルコールが入っていたこともあって、オレはすぐに言葉をかけた。
「魔女ですか?」
「はい、修行中です」
なんのためらいもなく魔女は答えて、さらに魅力的な笑みをみせた。
「この箒に乗るんですか?」
「出来ればね」
「はあ、まだ飛べないんだ」
魔女は、笑みを浮かべたまま「はい」と言った。
駅に着いたので降りる人、乗る人の移動が始まった。運良く魔女の隣が空いた。オレはすぐにその席に座った。
「魔女の学校とかがあるわけですか?」
「いいえ、独学で」と答えた魔女の表情が少し自信なげな気がした。
「それは大変ですねえ。秘伝の書物などがあるわけ?」
疑問にいちいち『ですか』をつけるのが面倒になり、もう友だちのように話しかけた。たぶんオレのほうが年上だろうと思いながら。
「それは他人には言えません」
もう笑みは見られなかったが、真面目な顔と口調で魔女は答えた。