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ふたりの漂流記

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 完全に暗くなる前に船内の清掃は一応終了した。季節は初夏でありながら、寒さが襲って来たのは間もなくのことだった。幸いなことに、その豪華クルーザーにはエアコンが装備されていた。冷蔵庫には食料も豊富にあり、飲みきれないほどのワインもあり、オーディオ機器は勿論のこと、大型ハイビジョンテレビとブルーレイレコーダーもある。ダブルベッドを備えた寝室は四部屋あり、シャワールームもある。しかし、操舵室の無線機やレーダーなどの機器は全て破壊され、エンジンはアイドリング状態で動いているものの、航行不能になっていた。舵輪は切断され、その姿を消していたのだった。
白瀬は急に疲労を覚え、サロンのソファーで横になった。
何日も眠っていたような気がする。その、重く深い眠りから覚めたのは、人の声が聞こえたからだった。
「ひとりだけ、生きていたんですね」
 そう云ったのは、ずぶ濡れの姿で立っている若い女性だった。起き上った白瀬は、その女性の蒼ざめた顔を見てからすぐにはことばを発することができなかった。
作品名:ふたりの漂流記 作家名:マナーモード