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コントラスト

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 コントラスト



 五年振りの故郷は白く着飾って私を迎えた。
 音もなく降り積もっていく雪を踏みしめながら、慣れ親しんでいたはずの道を頼りなげに歩いていく。
 高校時代までを過ごした町の空気が肌に突き刺さるように冷たい。
 私だってこんな形で帰ってきたくはなかったのに。

 人影が見えたような気がして立ち止まり、傘の上に乗った雪を掃いながら左手の空き地を見ると、そこには二段に重ねられた大きな雪玉があった。
 ミカンの目とニンジンの鼻、Vの字になった小枝の口、さらに頭の上には小さな赤いバケツ、腕代わりのふたつの枝先にはピンクの手袋、首には茶色のマフラー。

 子供の頃、こんな雪だるまを私も作ったことがある。あの時はお父さんも手伝ってくれたから、ずいぶんと立派なものができた。
 私はそれがとても気に入って暗くなるまでずっと側にいたけれど、翌朝の空には眩しい太陽が照っていて、もちろん雪だるまは跡形もなく解けていた。
 そんな当たり前の光景を見つめながら泣いた幼い私。困ったように笑いながら頭を撫でてくれた手の感触。
 
 顔を上げると、冬の日の温かい記憶が降ってきた。

 白い世界の中で雪だるまが笑顔でこちらを見ている。
 周囲に誰もいないのを確認して、黒い服の私は「さよなら」と手を振ってから歩き出した。


作品名:コントラスト 作家名:大橋零人