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火を吹く怪物の夢-MONSTER-

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「? 分からん。それのどこが悲しいってんだよ、なんてか、それこそラストサムライなんじゃねぇの――って、観たことねぇけど。ああ、地球環境のために人類をブチコロってんならそりゃ正義だ。滅びろ人類。地球のために消えたほうがいいね、まったく」
 映画終盤、俺はあっさりと感化されていた。人は醜い。ギャドラは強い。
 慌てふためく人類の最終兵器、やはり核。東京から人々を一斉避難させて吹っ飛ばすなんてな、あまりに愚かな末路だろう。
 吹き飛ばされる東京タワーを鼻で笑ってやるさ。映画の中でだけ。本当にあんなもん現れたら、なんと俺たち異常現象狩りが出動させられる恐れがあったり――
「ギャドラはね――――――――――“ひとり”なんだよ」
「………………」
 さすが――――博士は、ひとつ視点が違ったらしい。
「……ギャドラは突然現れる。母親はいない。兄弟もいない。家族はいない、友達も決していない」
 この地上に、自分と似た形のものはひとつとしていない。ある日突然そんな世界に産み落とされる。それはどんな孤独か絶望か。
「環境がどうとか、惑星のためだとか義憤だとか、そんな高度な知性はないの。ギャドラは怖い。ただ恐ろしい。ギャドラ自身がこの世界に、おぞましい人類の築いた地獄に怯えて恐怖して、いますぐに破壊し尽くさないと大変なことになるって生物的直感で理解するの」
「……そうか……ギャドラにとって、都市はお化け屋敷以外の何者でもないんだ」
 あまつさえ、次々と気の狂ったような化学兵器が襲ってくる。戦艦なんて徹底的に壊し尽くさないとならない。戦車の列なんか一台だって生かしておくことはできない。
 業火を吐き、地上を破壊し尽くし、矮小なくせに恐ろしい結束力を持った悪魔どもをひねり潰して――しかし、永遠に安心など出来ない。
 画面の中でギャドラは、核兵器の爆破に都市ごと巻き込まれ光に飲み込まれていく。
 月に向かって咆哮する。ついぞ救われることのなかった迷い子、ただ怯えていただけのこの世界の異物が。
 風景が変わるほどの大破壊、きのこ雲、そしてそれらをモニタで見守る登場人物たち。
 ――――――だが、
「……ギャドラはね……悲しいくらいに、強大な力を持っているんだよ……」
 生きて、いた。
 消し飛んだ都市の真ん中で、体表をグチャグチャに融解されて筋肉がむき出しになったような姿でまだ生存していた。
 泥のように滴る眼球の残骸――ああ、溶け崩れてなお、怪物はゆらゆらと前進していく。
 脚を止めたら死ぬのだ。人々も恐怖する。自らが殺しそこねた異形の無残さ、そのおぞましさに金切り声を上げて逃げ惑う。
 凶相のギャドラは、凶悪ではあるが苦しそうだった。苦しそうな熱の吐息で、人類を皆殺しにするため一歩一歩と歩き続けていったのだ――
 いつか、血の海と化し静けさを取り戻した無人世界で、たったひとりで安堵するために。
 『生き残るのは人類か大怪獣か』そんなキャッチコピー。
「…………なんつーか……すごい映画だった、な」
 劇場を出てしばらくの間も、俺は衝撃から立ち直れないでいた。
 グロイ。ありゃホラーだ。家族連れが発狂すんぞ。
「♪」
 山田はゴキゲンだった。踊るように商店街を歩き、電柱にぶつかって悲鳴を上げる。
 アホめ。
「…………いたた」
「しっかりしろ、おい」
 手を貸して立たせてやる。不意に商店の隙間から見えた遠いビル群に、山田はギャドラを重ねるように目を細めた。
 俺たちは人の街に住んでいる。悲喜こもごもあるが、無条件に人類の一員としてここに立っている権利を与えられているのだ。
「ねぇ――――もし、」
「あん?」
 もしも自分が怪物になってしまって、ギャドラのように街を食い荒らすようになってしまったら、
 そのとき自分は何を思うのだろうか? 何を思って叫ぶのだろうか?
 もしも自分が怪物《バケモノ》になってしまったら……。
 そんな意味合いのことを、山田は言った。
「………………」
 その手がまた震えている。少し苦しそうだったのを、俺は見ない振りをしてやることにした。
「………さぁな。やっぱ、怖くて泣き叫ぶんじゃないか?」
「そ?」
「俺ならそうする。――ああ、そのくらいの権利はあってもいいじゃないか」
「…………そ……」
 またトテトテと駆けていく。おぼつかない足取りで、かつては真っ当だったらしい少女が。
 真昼の、零れそうなくらいに日差しが差し込む大通りの前で振り返った。
「もし“その時”がきたら――――」
 おい、やめようぜそういう話。最悪の場合なんて考えるもんじゃない。
 なのに山田はどこまでも無邪気で、冷え切った晴天の秋風が駆け抜けていって。
「――――決して迷わないでね。地球防衛軍さん」
 怪獣オタクに、眩しい笑顔で敬礼されてしまったのだ。
 苦々しいったら無い。
「…………お前……」
「るんたー」
 儚い微笑は幻影だったかのように、歩き始めた山田は元通りボケボケだったけど。
 俺は言葉もなく、腰の後ろの短刀・落葉を意識した。



作品名:火を吹く怪物の夢-MONSTER- 作家名:廃道