ナマステ!~インド放浪記
当時、カルカッタと言っていましたが、今はコルカタと言うみたいですね。ここ
では当時のまま、カルカッタと呼ぶ事にします。カルカッタ空港に到着し、荷物
をピックアップ。今日は、カルカッタ市内のホテルに1泊し、明日の朝、列車に
乗って3時間半移動します。まずは、日本円をインド通貨ルピーに換金しなけれ
ばなりません。空港にある銀行の両替窓口に行きました。
当時はカード決済は一般的では無かったし、ましてやここはインド。ホテルでカ
ードが使える保障はありません。ホテル代と滞在・移動経費等、全て現地通貨で
支払う必要があるため、6万円程、ルピーに換金しました。レートは1ルピー約
2.5円です。6万円だと、24000ルピーになります。当時の最高額紙幣は
100ルピーでした。
「全部100ルピー札にしたら、食事とか、チップとか困るから、10ルピー札
を混ぜたほうが良い。覚えとけ。」
とゴリさんがおっしゃったので、20000ルピーを100ルピー札に、4000
ルピーを10ルピー札にしました。出てきたのは、6個の札束・・・
(そうか、100ルピー200枚、10ルピー400枚になるんだっけ。)
ゴリさんは、10ルピー札を20枚両替し、残りを100ルピー札と50ルピー
札と20ルピー札にバランス良く両替して、札束2つと少しにまとめていました。
私が、厚さ10センチの札束を持て余しているのを見て、
「お前なぁ、少しは頭使えよ。少し考えたら分かるだろう。それ、どうやって持
って歩くの?」
と呆れ顔のゴリさん。
こんな札束、財布に入る訳がありません。しょうがないので、おしりナップを買
ったときに入れてもらった、「おしりナップ」と書いてある紙袋にお金を入れ、
小脇に抱えて歩く事にしました。まぁ、ここはインドだし、日本語読める人もほ
とんど居ないでしょうから、「おしりナップ」と赤い字で書いてある袋を小脇に
抱えていたとしても、笑う人は誰も居ないでしょう・・・・ゴリさん以外は。
この札束、ダンボールを留めるのに使う様な巨大なホッチキスの針で留まってい
ました。札に直接穴を開けて留めているのです。日本だと、紙の帯で束ねている
のですが・・・適当な国です。その針を取るのに四苦八苦していると。ゴリさん
は、おもむろに小さなドライバーを取り出し、コキコキとこじって、あっと言う
間にそれをはずしてしまいました。
「ここでは、これが無いと紙幣をバラせない。無理やりやって破ると帰りに換金
してもらえない。覚えとけ。」
とおっしゃいました。
(覚えとくから、早くそれ貸して。)
商社の人がホテルで待っていて、迎えを手配しているという事だったので、到着
ゲートを抜け「Mr. Gori」と書かれたプレートを持っている人を探しました。到
着口を出ると、いきなり私のキャリアバッグとトランクケースに人が群がり、私
の手から奪い取ろうとしました。あせった私は「ノー、ノー」と言いながら必死
に自分の荷物を取られないように頑張っていました。赤いターバンを巻いた痩せ
ぎすの男5名程と、どう見ても乞食のようなぼろぼろの服を着た男の子10名程
に取り囲まれ、完全にテンパっておりました。
助けを求めようと、ゴリさんの方を見ると、彼は冷静に「お前とお前」と指差し
て、群がる人の中から2名選出し、自分の荷物を渡してしまいました。
「ゴ、ゴリさん。やばいっすよ。持って行かれちゃいますよ!!」
私が言うと、
「こいつらはポーターだ。10ルピーも渡せば、地獄の果てまで付いて来る。
覚えとけ。」
とおっしゃいました。
(最初から言っといてよ。覚えとくから。)
そう思いながら、私も2名選んでキャリアバッグとトランクケースを託しました。
さすがに「おしりナップ」の袋だけは、自分で持ちました。手ぶらになったゴリ
さんはスタスタと、先に歩いていきました。その後ろを荷物を持ったポーターが
付いて行きます。私も、紙袋を抱えて、ゴリさんに従いましたが、本当に持って
きてくれているのか心配で何度も振り返る始末。そんな私の様子を見て、苦笑い
しながらゴリさんが、
「この国の人たちは、熱心なイスラム教徒が多く、皆正直だから、荷物を奪って
いなくなるなんて事は絶対に無い。覚えとけ。」
とおっしゃるのでした。
(はいはい、分かりましたよ〜。)
外に出ると、出口の所に、「Mr. Gori」と書いたプレートを持った恰幅の良い髭
を蓄えた大男が立っていました。まるで、アラビアンナイトに出てくるサーバン
トの様ないでたちです。
(おー、まるで王侯貴族になった様だ。)
ゴリさんはそのサーバントに自分の顔を指差しながら近づき、「それは俺だ。」
という事を的確に伝えました。サーバントに付いて道路を渡ると、白塗りのベン
ツのリムジンが止まっていました。
(まさか!!)
そう、そのまさかです。私達はそのリムジンに乗って、ホテルへと向かうのです。
リムジンのトランクを開けると、ポーター達が、私達の荷物を丁寧に入れ、私達
の前で両手を合わせて頭を下げました。ゴリさんは1度コクンとうなずき、2人
のポーターに10ルピーずつ渡しました。一人25円の計算になります。私もま
ねをして、10ルピーずつ渡しました。・・・そのつもりが、辺りが暗かったの
と、「おしりナップ」の紙袋の中をごそごそやったせいで、間違って100ルピ
ーずつ渡してしまいました。渡した紙幣を受け取って、金額を確認したポーター
達は、目を丸くして「サンキュー、サー!」と言いながら、何度も手を合わせて
おじぎをしながら大層喜んで走り去りました。
あとで、100ルピー渡してしまったことに気づいて愕然としましたが、所詮2
50円です。その時は、「しょうがないか。」程度で、気にしませんでしたが、
朝食が35円程度、昼食が70円程度で済むこの国でバッグ1個運んで250円
もの大金を渡してしまった事が後で分かり、やっぱり愕然とするのでした。
ベンツのリムジンに乗り込み、「さあ、ホテルまで快適に行きましょう。」とシ
ートに腰を落ち着け、周りを見渡しました。何か変です。どうも内装がちゃちで
す。安物のプラスチックの内装と、シートはどう見てもビニール。窓は、手回し
のハンドルが付いています。
「なんちゃってベンツ」でした。ゴリさんはと見ると、自分の座るシート、手回
しのハンドルを念入りに「おしりナップ」で拭いているのでした。
(野獣みたいた顔して、綺麗好きというか、神経質というか・・・・)
呆れて見ていると、
「お前、後で偉い目に合うぞ。」
ボソっと言いました。
2人とも喫煙者で、飛行機での移動中、一本もタバコを吸えなかったので、ベン
ツの中でモクモクと煙を生産しておりました。どうせ、なんちゃってベンツなの
で、何も気にせず、タバコを楽しんだのでした。もう、夜の8時を回って既に暗
闇となった外の様子を煙る車内から興味深気に覗き込んだのでした。空港の入り
口には、おびただしい数の乞食が寝転がったり、空港から出てくる外国人の荷物
を運んだりしておりました。
作品名:ナマステ!~インド放浪記 作家名:ohmysky