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ナマステ!~インド放浪記

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製品を作る為には、いつまでにどの種類の製品をどのくらい作るかという製品計
画が必要になります。その製品計画を作っているのがソンさん達です。製品計画
はコンピュータで作成され、オーダーシートという製造命令書を印刷します。ロ
イさん達はその紙を見ながら、それにあわせて製品を作っているのです。

設備をオートメーション化する場合、この情報を製品計画用コンピュータから、
私達が作る制御用コンピュータへ送ってもらう必要があります。どんな情報をど
のタイミングで、どんな方法を使って送るかを話し合う必要があったのです。ま
た、ロイさんからは、どんな制御を行って、どんな機能があればよいかを聞く必
要がありました。それで、今回の打ち合わせという運びに至った訳です。

通された会議室の席に私、ゴリさん、ベンガルさんの3人が仲良く席を並べ、ソ
ンさん達が来るのを待っていました。額に赤い印をつけたかわいいお嬢さんがコ
ーヒーを入れに来てくれました。「ナマステ〜」、手を合わせ、コーヒーに口を
付けました。甘くておいしい! この甘いコーヒーにもだいぶ慣れました。ふと、
ゴリさん、ベンガルさんを見ると2人ともそのコーヒーには口を付けず、私を見
てゴリさんがこう言いました。

「もう、今朝たっぷり食べちゃったみたいだからまぁいいか。」

「そうですね、重要な部分は午前中に済ませてしまいましょう。」
とベンガルさんが同調します。

(なんの事を言っているのじゃ、この人達は。)
そう思って私は気にも留めず、一人おいしく、かわいいあの子が入れてくれた甘
いコーヒーをすすっていたのでした。

「ガチャ」

ドアが開き、ピートさん、ソンさん、ロイさんが、「ぐっともおにんぐ、えぶり
ばでぇ!」と口々に言いながら元気良く入ってきました。

(ん?)

後ろからもう一人、昨日は見かけなかった人がニコニコ笑いながら一緒に入って
きました。

(だれだろう?)

「はじめまして、今日はよろしくお願いします。私はこういうものです。」

そう言って彼は私たちに名刺を配り、握手を求めました。彼の使う英語は、本当
に聞きやすい英国人の使う英語そのものでした。とにかく上品な気品の漂うお方
です。

「あ、よろしくお願いします」

そう言って受け取った名刺には、「○○○コンサルテーション」という会社名と、
コンサルタントという肩書きが記されていました。名前の方は既に忘れてしまい
ましたが・・・・。

コンサルタントという事は、このプロジェクトに熟知していて、何かとアドバイ
スをする為に雇われたエージェントなのでしょう。

(これは面倒くさい人が登場したなぁ。ごまかしが効かないぞこりやぁ。)
そう私は思って緊張したのですが、この人、会議中は全く会話に加わらず、ただ
ニコニコと微笑んで会議の行く末を暖かく見守っていたのでした。ほかのインド
人3人組とは行動を共にせず。食事の時も一人離れているこの人を、他のインド
人はまるでお客さんのように丁寧に扱うのです。私は不思議でなりませんでした
が、会議の終盤でこの人の存在理由と正体が明らかとなります。

(カーン!)

バトル開始のゴングが鳴り響いたかの様に、彼らの顔色が変わりました。私たち
の提出した提案仕様書の内容を確認する作業を進めていくにしたがって、彼らの
目は血走り、すごい剣幕で怒り始めました。

「こんな話はきいてねぇだ! これは明らかに契約違反だ。 我々は追加でこの設
備の設置を断固要求する!」

彼らの欲している設備はとんでもない高価なもので、そんな話は最初から無かっ
たものです。

「そんな契約には最初からなっていません。」
私が言うと、

「なんだお前、そんな事いちいち話さなくても当たり前の事だ! プロならプロら
しい対応をしろ!」
そう言って私に掴み掛からんばかりの勢いでまくし立てるのです。そして、指を
私の顔の前に突き出して、威嚇するのでした。その指のカレーく臭かった事! 毎
日手づかみでカレーを食べているから、指にカレー臭が染み付いているのでしょう。

(ど、どうしよう!!)

途方にくれた私はゴリさんに助けを求めようとゴリさんの方を見ると、彼はニコ
ニコ笑ってこう言いました。

「ふざけんなこのやろう、お前らの様なド素人とは話にならん。工場長を呼べ!
俺たちは日本で最高の技術者だ。あまり非常識な事を言うようなら、今すぐ帰っ
たっていいんだぞ! と言ってやれ。」

顔はニコニコ笑っているのですが、それとは180度違う、相手を確実に怒らせ
る様な事を平気で言わそうとするのです。

「そんな事言ったら、大変な事になりますよ!」と私。

「いいんだ、大丈夫だ、さっさと通訳しろ。」とニコニコ顔のゴリさん。

結局のところ、そのセリフをしゃべるのは私であって、攻撃の矛先は私に来るで
はないですか。

(ええい! ままよ!)

私は、やけくそで、ゴリさんの言う事をそのままオブラートにも包まず、ストレ
ートに相手に伝えました。一瞬絶句した3人は、立ち上がり、私に掴み掛からん
ばかりの形相で、まくし立てて来ました。

「〇#$¥%♪×〇#$¥%♪×〇#$¥%♪×〇#$¥%♪×・・・・・!!」

もう何を言っているのかわかりません。私もすっかりパニくってしまいました。

相変わらずゴリさんはニコニコと微笑んでいるだけです。

「その設備、追加するとなると、金額はどれ位になります?」
とベンガルさんが聞いてきたので、ゴリさんが数千万の金額をベンガルさんに伝
えました。

「ほう」と一言つぶやいたベンガルさんは、「カタカタ」と持参したノートPCに
なにやら打ち込み、「ジジジジ」という音をさせて、これも持参したポータブル
プリンタから紙をプリントアウトしました。

ベンガル語の話せるロイさんに、なにやら説明しながらその紙切れを渡しました。

インド人3人衆はその紙切れにしばし見入り、なにやらこそこそと内輪で話合い
をした後、こう言いました。

「いいでしょう、この設備についてはこのままということにしましょう。」
先ほどまで、えらい剣幕で設備の追加を要求していた彼らが、あっけなく了承し
たのです。

「何の紙を渡したんですか?」
私がベンガルさんに聞くと、

「なぁに、ゴリさんから言われたままの金額の追加請求書を作って出してやった
までです。」
と涼しそうに答えるのです。

(インド人も凄いけど、この人達も只者じゃない!)
とても頼もしく感じました。

その後、幾度と無く、同じような追加要求とそれに対する否定、罵詈雑言の応酬、
追加請求書の提示をいうプロセスを繰り返し、提案仕様書の確認は進んでいきました。

すべての追加要求を却下した訳ではなく、簡単に出来るものに関しては、「今回
の3人の交渉に負けた」と称してサービスする事もそつなく行い。3人の立場を
守るという事も忘れていませんでした。

後にゴリさんから聞いたことですが、彼らは同じ金額でどれだけ追加事項を引き
出せたかという事が彼ら自身の手柄になるそうで、後の出世にも繋がることなの
で必死なのだとか・・・・。