あなぐら
髪を乾かし終え、ベッドへ近寄る。すると手塚さんは携帯を弄る手を止め、私を迎え入れるように、端へ少し動いた。いつも私は窓際で寝るので、自然とそちら側へ行くために、手塚さんを乗り越えていく。ベッドに足をかけるとぎしりと軋んだ。隣に座り、足から布団をかけ、寝転がるやいなや、手塚さんはその腕で私のことを強く抱きしめた。すっぽりと彼の胸のなかに収まってしまう。実は少し息苦しいし、首が痛くて、ある種の緊張状態に陥るけれど私は抵抗しない。されるがままに抱かれておくのだ。このときこそ彼が私を必要としている瞬間で、同時に私が彼に満足している瞬間であるからだ。この狭いベッドで、窮屈な態勢で、私はろくに眠ることができないとしても。隣で誰かが寝ている、次第に離れていっても、気付けば抱き寄せてくれる。
この空間は、抜け出すことのできないあなぐらのようなものだった。暖かくて落ち着く、けれどこのあなぐらは一度はいったらそれまで、その先出口が見えることはない。私はおそらく、この1LDKのあなぐらから出ることはできない。来るたびに、今日でやめようと決心していたって、手塚さんの腕に抱かれてしまえば、なにもかもが帳消しになってしまうのだ。