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てっしゅう
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「哀の川」 第二十五章 乗鞍

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今日純一は直樹を本当の父親だと思えるようになった。自分が大人になってそう分別しようとした訳ではない。母親への真実の愛情が理解出来たし、男と女の深い部分を感覚で解るようになっていたからであった。自分が両親に対して恩返しをしてゆかないと男として劣るとも考えた。急に由佳のことが気になりだした。ペンションの電話を借りて、掛けることにした。

「もしもし、由佳?ボクだよ・・・」
「こんばんわ?どうしたの、どこから?」
「のりくら高原、長野県の・・・ねえ、明日帰るから逢わない?」
「うん、逢いたい・・・帰り時間に電話して。ねえ、好き?」
「ここで言わせるのかい?隣にパパもママもいるんだよ」
「そうなの・・・私も隣に母が座っているよ。こっち向いて笑っているけど」
「良い関係だね・・・うん、好きだよ。じゃあ、電話するから」

直樹と麻子は安心したように、にこっと微笑んだ。杏子は入浴中でこの出来事は耳にしなかった。それが幸いでもあった・・・かも知れない。

翌朝早めにペンションを出て、みんなを乗せたエスティマはのりくら高原道路をくねくねと山頂に向かって走っていた。高山植物が見え始める2000m付近では時折車を停車して、写真を撮ったり、花を眺めたりした。下界とは別世界の涼しさに、持ってきた上着をみんなは羽織った。真っ青に晴れ上がった天空と残雪の残る山肌のコントラストが一行を別世界へと誘っていた。

車は山頂の駐車場に着いた。薄くモヤが右から左へと流れている。晴天であっても霧が発生しているのだ。ひんやりとする2400mの場所は初めての経験だった。付近を散歩して、休憩所に入ると、売り場の隅で石油ストーブが点けられていた。朝と夕方は寒いから、と店員は話してくれた。帰りは岐阜県側へのりくらスカイラインを通って下山した。麓の平湯温泉は奥飛騨温泉郷の入り口になっている有名な温泉場だ。

秋の紅葉、冬場のスキーと観光名所でもある。余談であるが、高山方面からの国道158号線沿いの平湯峠は紅葉が絶景である。カナダへ来たのかと思わせるほど旬の頃には感動的な景色に変わる。

小京都と称される高山市は文化財も多く、訪れる観光客を古き良き時代へと連れ戻す。純一と杏子は二人乗りの人力車に乗って観光した。直樹と麻子もそうした。二組とも仲良く手を握り合っていた事は言うまでもない。夫婦、甥伯母、当たり前の光景が、当たり前に映っている町並みであった。昼食はラーメン派とそば派に分かれた。それぞれに好みの店を選んで食べる事にした。食後は集合時間を決めて自由に散策しようと、美津夫が言ったので従った。

杏子は純一に何か買ってあげるから、と誘い、出かけていった。直樹も麻子とまだ残っている朝市の出店などを見て回った。
午後3時になって、車に集合し、楽しかった旅行も帰路へ着くことになった。41号線下呂から中津川へ抜け、中央高速で春日井へ向かい東名高速に乗り換えて一路東京を目指した。用賀インターへ着いたのは、すっかり暗くなった午後10時になっていた。