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いとこんにゃく
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誰が為にケモノ泣く。Episode02『手のひらに希望を』

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6,てのひらに希望を



 数日後。父の死を受け止め、自分がするべきことにようやく向き合えるほどに回復した由良は学校に復帰していた。久しぶりの教室は少し恥ずかしく、自分に対するクラスメイトの反応が不安だったが、それは杞憂に過ぎなかった。今までと変わらない友人たちの心遣いに由良はすぐに笑顔を取り戻した。
 由良は復帰後、一番最初にやらなければならないことがあった。それは、自分を救ってくれた一弥に礼を言うことだ。
 だが、想い募る由良の心とは裏腹になかなか一弥と会うことができなかった。ようやく顔を合わせたのは放課後のことだった。
 由良の姿を見つけた一弥はいつも通り気さくに声をかけてきた。特に由良に対する接し方は変わっていない。むしろ、変わっていたのは由良の方だった。あの記憶が頭に蘇り、由良はとても一弥と目を合わせて会話ができなかった。礼を言うだけなのにやたらと緊張してなかなか言葉が出てこない。すると、どうやら一弥の方も話があるらしく「落ち着いた場所で」と二人は学校を出ることにした。
 やってきた場所は学校から徒歩数分の場所にある緋晶湖を一周できる遊歩道。
 二人はしばし、太陽が沈みゆく黄昏時の景観を堪能したあと、芝生の上に腰を下ろした。
「…あの、センパイ」
「ん?」
 自分を見る一弥に、由良は深呼吸をして――深々と頭を下げた。
「センパイ。助けてくれて、ありがとうございました!」
「ど、どうした?急に」
 驚く一弥をその大きな瞳に映しながら、由良は込み上げる想いを寸前で飲み込んだ。一生分の涙はあのときもう流してしまったのだから、泣くことはできない。
「わたしは、取り返しのつかないことをしようとしていました。…父がいなくなって、もう、一人でどうやって生きていったらって思ったら…絶望でしかなかったんです。
 でも――本当にセンパイが来てくれて、声をかけてくれて、嬉しかったです」
「由良…」
 由良は、これ以上迷惑をかけまいと微笑んだつもりだったが、その瞳には涙が確かに潤んでいた。
「――どういたしまして」
 一弥は、由良の涙がけして悲しみからきているものではなく、父の死を乗り越えようとする決意からくる涙だと理解し、優しく微笑み返した。
「頑張ろうな。お互いにさ」
「はい!」
 あの後、一弥によって正気を取り戻した由良は自らの【疵】――ケモノと対峙した。アリシアによれば、ケモノとの接触は精神的な重圧《プレッシャー》がかかるため、最初は拒絶反応を示す者がほとんど(一弥も例外なく)だと語っていたが、由良は意外なほど冷静にケモノが自分のものであることを受け止めた。それは確固たる信念を胸に真っ直ぐ生きた父、勇を傍で見続けて養った芯の強さがあったからだろう。
 ケモノ持ちとして、【疵】と向き合っていくことを決意した由良はケモノに触れた際、父の死の間際の表情を思い出したと語った。
「――微笑んでいたんです。いつも、わたしを励ましてくれるときと同じ、でした」

「――父は、最後までわたしに希望をくれていたんです」


end.