アイラブ桐生 第二部 20~22
忘れたころに、寝台特急は深夜の駅に数分単位で停まります。
思いのほか長い停車時間の時もあり、
いずれも時間調整のための停車でした。
途中から、足元のほうにある窓が気になりました。
外の様子が見たくなり、余り物音をたてないようにして
態勢を変えてみました。
カーテンの隙間から、暗い車窓を覗いてみましたが、
暗過ぎて、どの辺を走っているのかまったく見当はつきません。
街灯の点いた電柱が、あっという間に現れて、
それが瞬時のうちに、後方へと飛んでいくだけの光景が続きます。
やがて真っ暗だった平原に徐々に街灯が増えてきました。
道路を行きかう車の台数も増えてきて、列車は光のあふれている
ネオンの海への突入をはじめました。。
眠りを忘れている、深夜の市街が近づいてきました。
到着したのは、午前0時を回った深夜の大都市・大阪駅です。
反対側のホームには、たくさんの人の姿が見えました。
終電間際と思われる時間帯なのに
、思いがけない大人数が列車の到着を待っています。
この時間まで働いている人たちもいるんだ・・
いやいやよく見ると、見るも無残な酔っ払っいの姿もありました。
一転して、こちらのホームへ視線を戻します。
あちこちの大人たちに交じって、小学生らしい幼い姿が見えました。
深夜なのに小学生たちが・・・・
ホームでパタパタ動く列車時刻の表示板と、その隣にある時計の針は、
間違いなく午前零時過ぎを示しています。
今日は土曜日です。
次から次へと大阪駅を通過する、上りと下りの寝台特急の雄姿を狙う、
(大人と子供の)ブルートレインの熱烈なファン達です。
中でも最長距離を走り抜けて西へ向かうこの寝台特急の『富士』号は
ブルートレインファンたちに、一番人気の被写体でした。
近くにいた小学生が、構えたファインダ―を覗きながら
愛想良く手を振っています。
お~と、喜んでカーテンの隙間から、こちらも手を振り返しました。
しかしどうもその小学生とは、視線がかみ合いません。
不思議に思って下を覗いてみると
見覚えのある頭がふたつ、仲良く並んで小学生に手を振っています。
少女趣味の花柄のパジャマと、超透け透けのネグリジェです。
「おまえらレズか・・・」
この時代、最長距離を走るこの「富士」号は、
上り下りともに子供たちにとっては、一番人気のブルートレインでした。
しかしこの場面に遭遇をしてですら、
私はそのことをまったく理解していません。
作品名:アイラブ桐生 第二部 20~22 作家名:落合順平