アイラブ桐生 第二部 20~22
寝台列車といっても、就寝時間以外は
一般の対座式の車両と同じようにように座席がセットされています。
そのために通常列車のように、座ったままで時間を過ごすことができます。
中段とななる2段目は、折りたたまれて頭の上に収納されています。
最下段のベッドが、座席代わりになります。
背もたれ部分にも充分なクッションが有り、座席自体にも
通常よりもやわらかめのと思えるほどの、快適な座り心地があります。
枕やハンガーなどの余計な付属品などの姿が見えなければ、
誰も寝台車とは思わないほど、ごく通常の座席と言える光景です。
沖縄出身の優子は、寝台車には乗りなれていました。
「ブルートレインなんて、呼び方自体は格好いいけれど、
2、3度も乗れば、国鉄ファンならいざしらず、
すぐに飽きてしまいます。
走っても、走っても、どこまで走っても
飽きるほど走っても、結局、丸一日以上も同じ列車の中だもの・・
同席した相手が、感じの悪い人だったりするともう、
それだけで最悪だわ。
たったこれしかない空間に最大、大人が6人も詰め込まれるのよ。
それこそ、逃げ場がないじゃないの。
そりゃあ、群馬みたいに、
とにかく、女性にも優しい男ばっかりならいいけど、
中には最悪なのもいるからね~」
「わからないわよ、群馬だって。
男はオオカミ、って言うもの。
とりあえずは優しくしておいて、油断をさせる、
すっかり安心をしたところで、突然パクリと食べちゃったりしてさ。
赤ずきんちゃんのオオカミみたいに」
「ごめんだね。君たちとでは」
「悪かったわね!
百合絵みたいなのが群馬のタイプでしょ。
勝てないもんねぇ、百合絵には。
スタイルはいいし、画はとにかくすこぶる上手いし・・
なんで今まで、まったく彼氏を作らなかったのだろう、百合絵は?」
「知らないの、優子。
有名な話だわよ、
百合絵は、折り紙つきの男性恐怖症なんだって。」
そんな話はまったくの初耳です。
えっとおもわず、こちらも聞きなおしてしまいました。
なんだ知らなかったの、と、恵美子が私の顔をのぞき込んできます。
優子も興味深そうに、恵美子を口元を見つめています。
「なんでも、中学生になりたての頃に
男性が嫌いになるような、とってもいやな体験をしたんだって。
詳しい事は言わなかったけれど、
田舎でも、ずいぶんと評判になった事件だというから
それ相当の体験だとは思うの。
いずれにしても、その突然の出来事がきっかけで、
それ以来、男性不審というか、
男を見るだけで、拒否症状が出るって言ってたわ。」
「男性拒否症か。
それに似た話なら、私も百合絵から聞いたことがある。
確かに、それ以上の詳しいことは言わなかったけど、
男性を受け付けない身体になっちゃったと、
笑って話してくれたことが有る。
あの美貌とスタイルなのに、
なんでそんな皮肉なことになるんだろうと、
思わず感じたことが有る。
綺麗過ぎるというだけで、
女には思わぬ落とし穴が待っているかもしれないわね。
とにかく頭はいいし、画もうまいし・・
非の打ちどころが無いと思うのに、
なんでよりによってに、男性不信なんだろうねぇ。
もったいない話だわよ」
「最近の百合絵を見ていて、
群馬とは、うまくいくような気配がしていたんだけど・・・・
あんた。百合絵をいじめなかったでしょうね!」
すかさず、優子も切りこんできました。
「そうよねぇ。
ほとんでスッピンのまんまだった百合絵が、突然お化粧をしはじめたし、
ジーンズとTシャツが専門だった服装も、気が付いたら
ちょこちょこと、小綺麗にお洒落まで始めるんだもの、びっくりしたわ。
スッピンでさえ私たちと同等なのに、
お化粧までされたら、まるで別人でしょ。勝てないわよ・・・・
男なんか受け付けない体質だったはずなのに、
いつのまにか平気で、男とつき合えるように百合絵が変ったんだって、
恵美子と二人で、びっくりもしたし、また喜んでもいたのに。
あんたさぁ、本当に悪さをしていないでしょうね?」
なにやら妙な雲行きになってきました・・・・
これ以上のコメントは避けて、煙草が吸いたくなってきたからと
あわてて立ち上がりました。
いぶかる二人を残したまま、逃げるように通路へ出ました。
大きな窓に寄り添うと、煙草に火を付け思い切り深く煙を吸いこみました。
(やれやれ危ないところだ、まったくもって危機一髪だ・・・)
作品名:アイラブ桐生 第二部 20~22 作家名:落合順平