親友
ここは砂漠…僕は独り、歩んでいた…昔同じ道を歩んでいた友を置いて…。
いつの間にか1歩が皆より大きく、速くなってしまったようだ。
たまに寂しくなって速度を急激に落としてみると、その時は友の姿を視認することが出来た。
皆は同じ道を着実に生きていた。
石橋を叩いて渡るような性格の僕はそんな安全な道から外れて、より安全な道を選んだ。
次第に訪れる暗闇。身を任せ、体を休める。
-目を開くと、そこは灰色の世界…ここは廃墟-
埃が充満している…。咳込みたい衝動を押さえてなんとか立ち上がる。
周りに友の姿は見当たらない。
きっと遥か後方で皆も寝ているのだろうと勝手に考え、歩むのを怠る。
いくら日が経っても誰も来る気配がない。
いよいよ不安になった僕は思うがままに足を動かそうとするが、体が思うように動かない。
罰が当たったんだ…何もせず怠惰に過ごし、友の事等お構いなしに体を横にしていた自分に。
どこかから鳴咽が聞こえた。この端が見えている小部屋に座っている孤独な人間は、好きな…いや、信頼できる、且つ愛している親友を求めて一筋の塩水を顔に作る。
なんとしても立ち上がりたかった。節々が悲鳴を上げる。くじけそうになる。身を投じたくすらなる。
小心者の僕にはそれが出来なかった。
顔に出来た跡が広がり、やがて足回りに小さな池を作り始めると、何故か腕が動くようになった。そこに希望を見出だす。
常備しているハサミに手をかけ、そのまま自分の腕まで持って行く。
閃く。肌へ克明に刻み付ける。
やがて、鮮やかな紅い液体が流れ始めると、体が軽く、緩くなり、何もかも思い通りに動かせるようになった。
何日か振りに全身を動かす。かつて遥か後方にいた友人を…今は地平線の彼方にいる彼等に追い付く為、しっかりと準備する。
傷跡が残った左腕を適当に隠し、今は目先のことだけ考えて、走る。体がどうなろうと気にせず走る。
-愛しい親友はここにはいない-
ここは田舎。僕は彼等を求めて眼前に広がる道を走り続けている。
いつかまた会えると信じて…。