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中川 京人
中川 京人
novelistID. 32501
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ペンで作った死者に指を差される

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親友と死に別れるのはつらいものだ。
 といっても自分にはそんな友人がいたわけではないので、想像でものを言っているに過ぎないのだが──。

 ……子どものころから続いている友がいた。好みも性格も違うので意見は噛み合わず、けんかもよくしたけど、ふたりはお互いの気持ちを心の中に咲かせることができた。彼もそんなふうだったという確信がある。顔を見ていればたいていのことはわかった。
 そのあいつが湾岸道路で死んだ。大型貨物からのもらい事故だった。
 一報を入れてきた相手の声が役者の台詞のように響く。落ち着いて聞いてと言われて、はいと答えた。耳で聞いているのに、文字を読むようにぎこちない。通話が終わるとそのまま閉じた携帯を見ていた。深呼吸して自分を確かめた。
 ひとは徐々には死なない。鮮やかな切り口を見せて死ぬ。生きていたときの慣性が残ってしまって、現実との不連続に戸惑う。
「そんじゃ、またな」「あ、また」
 そう言って自転車に高乗りしたまま夕日の中に紛れてゆくうしろ姿の中学生が、ふいに思い出された。あのあいつに、もう会えないのだ。そんなふうに何度も自分に言い聞かせなければ、この現実がつかめない。
 ひどい事故だったというが、顔だけはきれいなままだった。直感があった。自分に会うために残してくれたんだ。もしかしたら彼の声が聞けるんじゃないか。一縷の望みをたよりに顔を近づける。彼の唇がわずかに動いた。自分だけには聞こえる。ひとことももらすまいと耳をそばだてる。

「ペンで人を殺すのは自由だ。その先っぽで他人の臓腑を突くのでなければ。では聞くが、どうしておれを選んだ。おれが死ぬことが、お前にとって異物ではなく、予定調和なものだからか。お前の人生には、おれの死がよく似合うのか。おれの棺をゆすって慟哭する、そんなお前の姿を、じつは他ならぬお前自身が見てみたいからではないのか。心の複雑さを装うお前に、いま黒白(こくびゃく)のみを問う。自分自身に答えろ」