火曜日の恋
わたしは自宅に戻ると家の中には入らず、外に置いてある自転車に乗って礼子の家に向かった。少し迷いながらもそこに到着し門の正面に立つと、裏千家云々という案内の書かれた板が門の横にかかっているのが見えた。それを見て、やはりあの礼子の家なのだ、中年女性の言っていたことは本当のことなのだ、と急に実感され涙が溜まっていくのを感じた。
しかし礼子の家に来たところで何もできることはない。礼子の家族に何と言えばいいのかもわからない。わたしはそのまま再び自転車に乗って走りだした。
礼子の家から二十分ほど、緩やかな坂を上ったところにある寺はわたしも知っている寺だった。ここに礼子の家の墓があるという。わたしは寺の前で一度自転車を停め、それから少し先に見える花屋に行き、仏花を買って再び寺に戻った。
墓の詳しい場所は聞いていなかったが、どうしてかわたしにはその墓がすぐにわかった。先ほど表札で見た礼子の家の名字が刻まれており、まだ瑞々しい花が供えられていた。少し先に誰か来たのかもしれない。白いビニール袋のようなものが見えた気がしたが、瞬きをすると消えてしまった。
すでに供えられていた花の脇に、先ほど購入した花を挿して手を合わせる。毎週火曜日に彼女はいた。昨日言葉を交わした彼女は確かにそこにいた。それなのに、今はこの墓の中にいるというのだろうか。自分でも気づかないままに涙が流れ落ちていった。
そしてわたしは彼女との約束を思い出し、自転車に乗って再び駅に向かった。