おかしな話たち
『小さな空間とコーヒーとケーキ』
女がらみのことは
もう考えたくもない
あまりタバコの匂いが好きじゃない。
それでも漂う匂いを我慢する。
眠くなる喫茶店
のどに残る苦い香り
電池の切れた携帯電話
パソコンのない空間
ここは取り残された世界だ。
四つの椅子
カバンと上着と僕以外 この席には誰もいない。
420円の安いスケッチブック
夕日が寂しく沈んでいく。
胃の中にはもうとっくに何もないだろうか
550円でこの気分はありがたい。
『喫茶店』
ガランゴロンと音を立てぼくは喫茶店へ入った。
室内の草花にコップで水をやる店員がいた。
ケーキと紅茶を頼んだ。
ぼくはケーキの尖った方から順番にフォークで切って刺して頬張った。ケーキを食べながら紅茶を含み口の中で溶かしていった。
紅茶を飲み終えると今度はフォークを頬張った。
皿も頬張った。カップも頬張った。氷も水もグラスも頬張った。灰皿も一飲みした。砂糖入れもメニュー表も机も頬張った。
まんまるのランプは少し熱かった。
ガラス窓もバリバリと食べていった。
空っぽになった喫茶店を僕は飲みこんだ。
『無秩序ブランコ』
ぎー、きー。とブランコが揺れている。誰も乗っていないブランコが小さく揺れたり大きく揺れたり止まったり。
誰か乗っているようで、まったく誰もいないように見える。
透明人間か幽霊か僕か。
やたらと動くブランコを見つめる。ブランコは急に砂場に吸い込まれて消えていった。
しかし、ぎー、きー。という音は鳴りやまない。
何故だろう。怖くなかった。
そんな脈絡のない僕の夢を獏が観た。