チーズを入れるひと
四十年前、小学五年の家庭科。先生の質問は穏やかだった。
ネギだ豆腐だとやかましい中で、先生はカツカツと黒板に書き出していったが、僕がマーガリンと言ったところでチョークを止めて振り返った。
マーガリンを入れるの? 本当に?
教師のあきれ顔に呼応して周囲の嘲笑が始まる。
本当だ。父はいつもそうしていた。でも僕は咄嗟にこんなふうに言って誤魔化した。
チーズも入れるよ。
案の定、クラスのざわめきは勢いを増す。
でも僕は嘘を言っていた。そんなひとは知らない。味噌汁にチーズを入れるなんて。
クラスが笑った。
先生も笑った。
僕も笑った。
チーズを入れるひとのことを。
笑われて当然のひとのことを。