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ただ書く人
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立て籠もり犯

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 警官隊が発砲して応戦し、犯人は慌てて姿を隠しました。

 何をいっているのだ。拳銃など持っていない。応戦というが、こちらは窓を開けただけではないか。いったいどうなっていやがる。
「待ってくれ。話をする。撃たないでくれ」わたしは大声で叫んだ。
そして、這いつくばった姿勢のまま恐る恐るカーテンを開けた。その途端、また銃声が響きわたった。
「撃つな。撃たないでくれ」わたしは再び叫んだ。
しかし、その叫び声は、いくつもの銃声で貫かれ掻き消された。わたしはその銃声になんとなく、無数に連なった風船が一斉に割れる様子を想像した。そしてその割れる風船は、体を撃ちぬかれる自分の姿に変わっていった。一年ほど前の立て籠もり事件の犯人はどうなったか。射殺された。奴らはわたしを殺す気なのだ。話を聞く気などないのだ。

 自分は銃器を持った凶悪犯になっており、警察官はわたしを殺そうとしている。わたしにわかるのはこれだけだった。誤解で撃ち殺されてはかなわない、とわたしは携帯電話を手に取り、なんとなく安全そうだからと風呂の中に避難した。そして、ひとりの友人に電話をかけたが「おかけになった電話番号は現在使われておりません」という反応だった。もう一度電話をかけても、別の友人であっても、同じ音声が聞こえてくるのみだった。次にわたしは母に電話をかけたが、これも同様だった。会社に電話をかけた際は、さすがに番号が使われていないということはなかったが、そもそも土曜日なので誰も電話に出るはずがなかった。先ほどテレビでいっていた「同僚の方」とはいったい誰で、どこで見つけたというのだ。
 そうして携帯電話の電話帳を見ていて、わたしはようやく頼りになりそうな人物を発見した。普段疎遠になっていることもあり、慌てていて思い出せなかったのだが、兄がいたのだ。兄は、今わたしの住むアパートを取り囲んでいる警官隊と同じ神奈川県警に勤めているのだった。部署がどこかは知らないが、話を聞いてもらうことくらいはできるだろう。わたしは携帯電話を操作して電話帳から「善太郎」を選んで電話をかけた。
「もしもし」兄は電話に出てくれた。
これで安心だ。何が起こっているのかを兄に聞いて誤解を解けばいい。
「兄さんか。喜次郎だ。久しぶり。聞きたいことがあるんだが」
そのわたしの言葉の途中でその電話は切られた。一瞬わたしは絶望しかけたが、何かの間違いがあったのかもしれない、ともう一度電話をかけた。するとその電話は通話中になっていた。携帯電話の場合、電波が悪くで通話が切れてしまった際にはよくあることだ。互いにかけ直そうとして何度も通話中になってしまう。わたしは少し安堵して、一分ほど待ってから再び兄に電話をかけた。すると「……お客様のご希望により、おつなぎできません」というアナウンスが流れてきた。「ご希望」とはどういうことだ。最も、いや、唯一頼れる人間、それも実兄に着信拒否をされてしまったというのか。わたしはやはり絶望した。
 どういうわけか、わたしは家族からも友人からも見放されてしまっているようだった。これでは会社の同僚たちも同様だろう。昨晩から今朝までのたった六時間でいったい何が起こったというのか。いや、もしかしたらもっと前からだったのかもしれない。それにしても昨日の職場では皆がいつも通りだったので、会社を出て以降のことだろう。わたしは再び金曜日の夜の行動を思い起こしたが、どんなに考えても別段も変わったことはしていなかった。会社を出てからは途中コンビニエンスストアに寄っただけでまっすぐ帰ったし、そのコンビニエンスストアの店員以外とは言葉も交わしていない。しかし、わたしにとってはまったく不可解なことなのだが、神奈川県警も母も兄も友人も、わたしが何をしたのか知っているということなのだろう。
 次にわたしは最寄りの警察署の電話番号を調べて電話をかけた。自分の名前を名乗ったら取り次いでもらえないような気がしたので、名乗らずに事件のことを聞こうとしたのだが、なんとここでも「お客様のご希望により、おつなぎできません」というアナウンスが流れた。警察署の電話でもこういったことをするのか。わたしは不思議に思いながらも、番号通知を拒否して再度電話をかけた。兄にもこうしてもう一度電話をかければよかったのだ、と思いつつ携帯電話を耳に当てたのだが、今度はコール音が鳴るばかりで一向にその電話が取られることはなかった。きっともう一度電話をかけても、兄に電話をかけても、他の誰であっても同じことだろう、と考えてわたしは諦めた。
 いや、最後の手段があった。百十番にかけたらどうだろうか。一般市民からの通報を受け取らないわけがない。わたしはそう思って一応番号通知を拒否したまま百十番に電話をかけたが、信じられないことにここでもわたしの電話は無視されてしまった。
 こんなことはありえない。そうだ。そもそもわたしが犯罪者だということがありえないのだ。わたしはひらめいた。これもありえないことなのだが、いわゆるドッキリ、というものではないだろうか。わたしのような一般的な会社員を笑って何が楽しいのかわからないが、家族や友人、警察をも巻き込んだテレビ番組の企画なのかもしれない。そうであればすべてに説明がつく。そして、そうでなければすべてに説明がつかない。
 この部屋にも隠しカメラが仕込んであるのかもしれないぞ。わたしは風呂場から頭を出して部屋の隅を見渡したが、特に目についたものはなかった。しかしきっとあるはずだ。そしてわたしが訝しんだ様子を見せていれば、そろそろ頃合いだとして、テレビ局員が、もしかしたらそれは兄かもしれないが、下卑た笑みを浮かべながら「ドッキリ」と書かれたプラカードを持って登場するに違いない。
 なんとなく安心したわたしは、突如として空腹を思い出し、堂々と風呂場から出ると、冷蔵庫から冷や飯を取り出して電子レンジに入れ、タバコに火をつけた。そしてテレビに目をやった。このテレビもアンテナに細工をしてあるのだろう、とリモコンでいくつかチャンネルを変えたり、テレビの裏やアンテナ線を眺めたりしたが特に変わった様子はなかった。きっと外で何か細工をしてあるのだ。それにしても本当に発砲するとはやりすぎだ。いや、あれはすべて空砲で窓ガラスにも何か細工をしてあったのかもしれないな。わたしは窓ガラスを調べようと、テレビのリモコンを持ったまま窓に近づいた。そしてわたしの体に数発の銃弾が撃ち込まれた。

 先ほど再び犯人の姿が見え、警官隊が発砲しました。
 タバコを口に咥え、手にはダイナマイト、でしょうか。黒っぽい筒状のものを持っていたようです。
 ここからでは判別できませんが、犯人は銃弾を受けて倒れたようにも見えました。
 あ、警官隊が突入しました。
 犯人は射殺されたようです。繰り返します。犯人の山田喜次郎は射殺されました。
 近隣の皆さんご安心ください。凶悪犯は射殺されました。これで安全です。
 平和な街は守られました。万歳。

電子レンジが愉快なメロディを奏でた。
作品名:立て籠もり犯 作家名:ただ書く人