アイラブ桐生・第二部 17~19
まんざら考えていない訳ではないが、男のあなたに説明したところで
到底理解ができない世界だから、いいから、あんたは早く呼びに行けと、
強い剣幕のままアパートを追い出されてしまいました。
約束の場所では、京子が白い顔でうつむいていました。
病院へ行く前の、少しだけ紹介したい人たちがいるからと説得をすると、
余り疑いもせずに、黙って後ろから怪奇館までについてきました。
(覚悟を決めた女は、ひたすら強いと言う話はよく聞きますが
京子からも、何が有ってももう動じないと言う決意ぶりが強く見えました・・・)
百合絵の部屋に案内をした瞬間、
待ちかまえていた笑顔の女どもが、あっというまに京子を取り囲みます。
私も入ろうとした寸前に、「女たちだけの話に、男は邪魔だ!」と
ドアが猛烈に閉められました。
じゃあ私はどうしたらいいのだ、とドア越しに聞けば、今度は
「いいから、2~3時間潰しておいで~」と軽く、いなされました。
追い出されたままに階下の茨城くんを訪ねると
朝からのただならぬ異様な気配に、すでに気がついていたようです。
「なにが起ったの?
さっちゃんも2階へに来ているようだけど・・
お前はなにが起きたか知っているんだろう。
連れてきたお下げ髪は、例の飲み屋の看板娘か
女が5人、いったい何が始まるんだ・・・なあ群馬。」
説明すると長くなる。
まあ、いいから映画でも見に行こうと、
茨城君と連れだってアパートを出ました。
女同士の話の決着が、どのようにつくのかはまったく予測がつきません。
同じ空間にひたすら待機しているのが、どうにも耐えられないだけのことでした。
大好きな「フ―テンの寅さん」をリバイバル館でぼんやりと観た後、
立ち食いの蕎麦を掻き込みます。
どうにも遅く進む時計の針を横目で見ながら四苦八苦で、さらに時間をつぶしました。
アパートに戻った時は、すでに正午をすこし回っていました。
戻った瞬間に二階から、声がかかりました。
この重大な時に、貴方達はなにをのんびりと遊び回っているのと、
きつい目をした百合絵から、こっぴどく怒られました。
今度は、急いでハンコを持って2階へ上がってこいと命令をしています。
旅の途中なので三文版しか持っていないが、それで大丈夫なのかと
聞き返すといいからそいつを持ってさっさと上がって来いと、
さらに高飛車にせかします。
(う~ん、こいつまで、レイコみたいな命令口調になってきたぞ・・・・)
ハンコを持って百合絵の部屋へ上がっていくと、
女5人が車座になったその真ん中に、婚姻届が置いてありました。
(婚姻届! なるほど・・・3人寄れば文殊の知恵と言うが、
女が5人も居ると、途方もない手を思いつくもんだ。へぇ・・・・)
女性が記入する欄には、
すでに京子の名前と本籍地の住所が書いてありました。
さらに立会人の欄には、流れるような筆跡で百合絵の名前が書いてあり、
そこにはすでに、綺麗にハンコが押されています。
反対側にある立会人の欄には、おまえの名前を書いてハンコを押せと、
百合絵が、婚姻届を私の目の前に押し出しました。
「だ、いつ出すの、これって?」と聞きながら書きこんでいると
「これから次第の話。
本籍地から戸籍の書類を取り寄せないと、正式なものにはならないし、
あなたの友人が、承諾するかどうかも微妙だわ。
でもまぁとりあえず、京子には気休めになると思う。
今のこの時点で、母と赤ちゃんの二人が生きている証明書なのよ。
これを突き付ければ、たぶんあんたの同級生も、
重く受け止めてくれると思う。」
ここまでは女性陣のアイディアで、順調に事が進みました。
しかしこれ以降が、大変なことになりました。
夕方からは全員で飲みに出かけようという約束は、すでに出来あがっています。
問題は、その簡までの時間ををどう過ごすかでした。
それまでの時間潰しもかねて、百合絵の発案で京子をモデルに
画を書こうということに決まりました。
作品名:アイラブ桐生・第二部 17~19 作家名:落合順平