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松橋オリザ
松橋オリザ
novelistID. 31570
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立ち読み版 二十一歳のアルゴリズム

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 ヘソを曲げて携帯を切ってしまったこともあり、宇津宮から……もと、担任教諭から連絡を受けた飯星家は大騒ぎとなった。
 そんなこととはつゆ知らず、七織は宇津宮の元へ戻ったが、おかげで二人の関係が実家にばれてしまった。
 激怒した父には、おばあちゃんの認知症がすすんだことまで自分のせいにされ、さほど遠くない埼玉の実家には帰りにくくなったまま、一年の歳月が流れていた。



「七夕が誕生日なんて、ロマンチックねえ。お祝いだもん、御飯、おごるわ。それとも、茂さんと約束?」
「これから、埼玉の実家に帰ろうと思うんだ。もうすぐ、茂さん帰ってくるから、行ってみたら?」
 父は出張で一週間ほど不在。しょっちゅう夫婦げんかをしている母も、寝たきりの祖母と二人きりでは気が滅入るのだろう。「たまには帰って来て」と、今朝、電話があったのだ。
 鬼の居ぬ間……というわけでもないが、久しぶりの我が家だ。
(そう……だから、今夜、僕はこの目の前の公園に行けない。だから、僕らは会えない。だから、お嫁さんにもなれない)
 そんな口実は七織をほっとするような、それでいて、後ろ髪を引かれるような気もちにさせる。
……と言う事はかなり深く、脳裏に刻まれていたということにもなるのだろうが。
「七織がいないのに、行くもんですか。茂さんと面つきあわせてたって、つまんないだけだもん」
 半ば予想通りの返答だった。そんな育子とバンブーで別れた七織は公園に背を向け、電車に乗り込んだ。
 埼玉県とは言っても、引っ越したのは東京のベッドタウン。竹の丘からは電車で四十分ほどの所だ。



「ただいま」
 玄関をあけたとたんに、母がぱたぱたとスリッパを鳴らして走り寄ってきた。いくら自分の帰宅が久しぶりだとはいえ、今までと違う。
「七織、いいタイミングだわ」
 母の目がキラキラと輝いている。
 背中を押されてリビングに入ると、初対面であるにもかかわらず、その人は「やあ」と立ち上がった。
 メガネの奥の柔和な瞳、ふっくら気味の唇と、どれも一級品と言うわけではないのに、それらがコラボして、文句のつけようのない端正なマスクができあがっている。