ぼくとフーボの日々
手術の準備が整う間、ぼくは病室で待つことになった。その間、お母さんは入院のしたくをしてくるといって家にもどっていった。
ベッドの上に体育座りをしたぼくは、ひざっこぞうをなでてみた。さっき注射してくれたちんつうざいが効いているので痛みはない。
手のひらにぼこぼことしたかたいものがふれた。そのとたん、怒りがこみ上げてきたぼくはフジツボに向かって言った。
「おい。フジツボの分際で、よくもぼくの身体をのっとったな」
もちろん、フジツボがこたえるはずがない。
「もうすぐお医者さんが、おまえを退治してくれるんだからな。かくごしておけ」
ぼくが勝ちほこったように言ったそのときだった。
「え? わたしは殺されるのですか? いやです。助けてください」
いきなり声が頭の中にひびいたんだ。
「だ、だれだ?」
ボクが叫ぶと、また声がした。
「あなたがフジツボと言っているものです」
「はああ?」
ぼくはまじまじと自分のひざっこぞうを見た。
「アナタの身体の中とは知らず、失礼しました。でも、どうか殺さないでください」
今度はあわれっぽくお願いしてくる。
「殺さないでっていわれてもなぁ」
「お願いです。アナタのじゃまにならないようにしますから」
「っていっても、現におまえ、おまえのせいでぼくは歩けなくなっちゃったんだぞ。しかも、ものすごく痛いし」
「ごめんなさい。でも、もうだいじょうぶです。意思の疎通ができたから」
いしのそつう? イシノソツウってなんだっけ? なんでこんな生き物がむずかしいことばを知っているんだ?
「なにいってんだ。今はちんつうざいが効いてるから痛くはないけど、これが切れたら痛くて歩けないんだから」
「ですから、こうやってアナタとお話ができるということは、一心同体になったということで……」
「じょ、冗談いうな。なんでおまえなんかと一心同体なんだよ」
「それは、わたしがアナタの血で育ったからです」
フジツボは話を続けた。まったく、いつのまにことばを覚えたんだ? って思うくらいぼくにはわからない単語まで使って。
「……それにアナタの血のおかげで、わたしにはそんじょそこらのフジツボとはちがう能力がそなわったのです」
「ちがう能力?」
「はい。こうして、テレパシーでアナタと話すこととか……」
そこへ看護師さんが入ってきた。てっきり手術の準備ができて、迎えに来たのかと思ったら、
「まさとくん。もう帰っていいわよ」
だって。
「へ?」
ぼくはふぬけた声を出した。
「成分を調べたら、フジツボじゃなくて骨が変形したんですって」
ちょうどそこへお母さんももどってきて、先生から説明を聞いてぽかんとしている。
「あ、あの、でも先生。骨が変形しているのなら削るとかなんとかしなくて……」
「ああ、ちょっと注射しておきましょう。それで大丈夫ですよ」
と言って、痛い注射をされて、家に帰された。