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せき あゆみ
せき あゆみ
novelistID. 105
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ぼくとフーボの日々

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 日曜日、ぼくはお父さんに頼んで、夏にいった海につれていってもらうことにした。ケイコちゃんも一緒にいくという。
「まさと、そんなに熱があるのにだいじょうぶなのか?」
 お父さんは心配そうだ。
「たぶん、お姉ちゃんのいうとおり、フーボを海に返せば下がると思うんだ」
 久しぶりの一家そろってドライブだ。ケイコちゃんもいっしょなのがよけいうれしい。これで熱がなければ最高なんだけどね。

 二時間かかって海についた。夏にはにぎわっていた海もひっそりとしている。ぼくは砂浜のはずれの岩場にいった。
「たしか、この辺だった」
 ぼくは岩のすきまから海に入っていき、ひざががつかる位置まで進んだ。
「ああ、気持ちいいなあ」
 フーボが目を覚ました。
「どうだい? フーボ。ふるさとの海だよ」
「まさとくん。つれてきてくれたのですか?」
「うん。お父さんの車でね。お姉ちゃんがフーボは海に返るのが一番いいだろうからって」
「ありがとうございます」
「お母さんもケイコちゃんもきてるよ」
「え? 本当ですか? うれしいです」
 フーボはひとりずつにあいさつした。
「もう、お別れです。みなさん手をつないでください」
 ぼくはケイコちゃんと、ケイコちゃんはお姉ちゃんの手を取り、お姉ちゃんはお母さんと、お母さんはお父さんの手をとった。
 すると、頭の中に海の景色がうかんできた。
「わあ、きれいだ」
「ほんと。きれいだわ」
 海草が波にゆれて、色とりどりの魚が泳いでいる。
「フーボからの贈り物ね」
 波の音を聞きながら、ぼくたちはしばらくの間、海のパノラマをみていた。
 そのうち、すうっとひざから何かがぬけていったような気がしたかと思うと、パノラマも消えていった。
 ぼくは海からあがってひざをみた。今まであったオデキのようなフジツボは、かげも形もなくなっていた。
「さよなら、フーボ」
 ぼくは大きな声で海にむかって叫んだ。涙がでて仕方がなかった。