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ジェストーナ
ジェストーナ
novelistID. 25425
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好きして! sister&darling

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  「おはよう」
  「おはよ……って、アヤ?」
  「ユイ……じゃないよねぇ」
  翌日、やってきた少女を見てクラスメートたちは皆順繰りに驚いた顔をした。
  彼女のストレートの髪はふわふわしたパーマがかかっていたし、シンプルを好む趣味とは程遠い装飾品が指や耳を飾っている。化粧の仕方もいつもとはまったく違う。だが、声のトーンは紛れもなく姉のほうであるのだ。
  「ちょっと頑張ってみたんだけど、変かな?」
  「……いつもの雰囲気じゃわかんないけどさ……よく考えたらアヤって学校一の美少女の
 双子のお姉さんなんだよね……」
  「人間、ここまで変わるんだ……」
  そこはかとなく失礼な言葉を受け止め、彩は努めて可愛らしく微笑んでみせた。
  彩はウォークマン標準装備で授業の用意をしている篤志に近寄り、そっとおはようを言った。
  篤志は振り返り、目を見張った。ヘッドフォンを外し、彩を見る。
  「えっと……菅野さん、おはよう」
  「うん。おはよう田原くん」
  「一瞬妹さんかと思ったよ」
  「あはは、双子だから顔似てるし仕方ないよ。それとも、変……かな?」
  篤志は口ごもった。視線を泳がせ、やがて口を開いた。
  「変、っていうか……似合わないっていうか。こういうこと言うの失礼だと思うけど、菅野さんは前のほうがいいよ。無理に自分の色を捻じ曲げたって、……その、あんまり可愛くないと思うし」
  「………」
  「あ、その、気ィ悪くしたらごめんな! 俺、無神経だから」
  「ううん、いいの。はっきり言ってくれたほうが嬉しいよ」
  彩は篤志に背を向けた。
  ――――鈍器で頭を殴られたような衝撃だった。
  なんとか彼の歓心を買おうとしたが、そんなのはまったくもって無意味だったのだ。いくら姿かたちが一緒でも、中身まではそうはいかない。彼は雰囲気や顔で結依を好きになったのではなく、たったひとりの妹を好きになったのだ。それをなんだ。自分は見てくれさえ変われば何とかなるだろうと、なんという愚かな考え! それは自分も相手も侮辱した行為に他ならない。
  悔しくて涙が出てきそうだった。愚か過ぎる道化を、嘲り笑う声さえ聞こえる。
  「あ……、菅野さん」
  篤志が彩に声をかけた。
  わずかな期待と共に彩は振り向いた。だが次に発せられたものは、彩の甘い期待さえ打ち砕くものだった。
  「今日は、妹さん来ないの?」


  「馬鹿みたい……」
  青空の下、彩は呟いた。
  一時間目の授業をサボって彩は屋上に来ていた。装飾品は全部外し、結依に似せた化粧は落とし、今はもう何をする気力もなく放置している。制服が汚れるのも構わず、地面にごろんと寝転がる。
  「はあ……」
  空はどこまでも高く、そして青かった。ずっと眺めていると、自分の今までの悩みすべてがちっぽけなもののように思えてきて、彩は目を閉じた。そうして次に目を開けたとき視界の隅に鮮やかな影がよぎる。
  「……スカートの中見えるよ、ユイ」
  「お姉ちゃんのえっち」
  「あ、本当に見えた。いい加減キャラクターものは卒業しなよ」
  「きゃああっ、お姉ちゃんのえっちーっっ」
  「涅槃って知ってる? おまえ」
  ひとしきり騒いだら、二人の間にはまた沈黙が訪れ、会話が途切れた。立ち尽くして全身を風になぶらせていた結依は、やがて彩の隣に座り込んだ。衣擦れの音だけが響く屋上で、そっくりな生き物がふたり活動している。
  長い時間が経過して、チャイムがいくつかなった後、先に沈黙を沈黙を破ったのは彩のほうだった。
  「……なんにもわかってなかったんだね、あたし。馬鹿みたい。外見だけで恋愛するわけじゃないのに」
  結依は何も言わなかった。ただじっと彩の言葉を待っている。
  「子供だったのかな、あたし」
  「……いいんじゃない? ユイはそんなお姉ちゃんが好きだよ」
  「ありがと」
  微笑んだ彩は腹筋を使ってがばっと起き上がる。
  「どうせこの世は女より男のほうが多いのよね! うん! たかが一回の失恋ぐらい、なんてことないわよねっ!」
  ぐっと拳を握り締めて彩は叫んだ。その顔には晴々として、自信に満ちたいつもの彼女の笑みが浮かんでおり、傍らで見守っていた結依もまた幸せそうな笑みを浮かべていた。彼女は元気な姉の姿を見るのが何より好きなのだ。
  彩は伸びをした後、再び寝転がって言った。
  「ユイ、あんたは田原くんと幸せになりなさい。あの人いい男よ」
  「ふぇ? 違うもん、ユイはお姉ちゃんのお嫁さんになるんだもん」
  「……あ? ワンモアプリーズ?」
  「だからユイはお姉ちゃんのお嫁さんになるのぉっ」
  「………」
  きらきらと光を放ちそうなほど無垢な笑顔で結依は言い切った。その笑顔を見て彩は今更とある事実に気付き、ぽんと音を立てて脳内に図式を浮かび上げた。
  田原くんはユイが好き→ユイはあたしのことが好き→……あたし一人勝ち?
  腕を組み、もう一度その図式の意味を考える。そして、にやりと笑って呟く。
  「……悪くないかもしれない」
  「なにが?」
  「なんでもないわよ。やっぱりユイが一番可愛いってことよー。怒鳴ったりしてごめんね」
  「別にいいのっ。ユイ、お姉ちゃん、だーい好きだから!」
  「おーおー可愛い奴めっ」
  彩に抱きついた結依は、年齢の割には育っていない胸に顔をうずめ、それから仲直りのちゅーをせがんだ。滅多にないほどの上機嫌な彩は、文句ひとつ言わずに結依の頬にちゅっとキスした。愛しの姉の感触を存分に堪能しつつ、結依は彩には聞こえないように小さく呟いた。
  「こうなることは大体予想済みだったけどね。お姉ちゃん傷つけちゃったのは可哀想だけど、篤志くんなんかにユイのお姉ちゃんは渡さないもんね」
  「ん、ユイなんか言った?」
  「お姉ちゃんが大好きだよって言ったのー?」
  おとなびてはいるけれど中身は子供のように純粋な姉と。
  子供っぽい言動をしてはいるものの中身は予想以上に黒い妹と。
  ひとつの鋳型から作られたかのようにそっくりな姉妹の波乱はまだまだ続きそうである。