好きして! sister&darling
(何が『ああ、これだから姉は止められないのだと、ふと思った』だ、あたし! このままじゃ駄目なのはわかりきってるのに!)
昼休みになったのに、彩は頭を抱えて百面相していた。
結依がしきりにあーんしてとせがんでいるが、今日は考え事をしているふりをしてそれを無視し、彩は弁当箱の中にちょこんと可愛らしく座っているうさぎの形に剥かれたりんごをフォークでで突き刺した。口に含めば、甘酸っぱい感触。
(でも、田原くんはユイのことしか見てない。顔は似てても、ユイしか見てない。ユイしか見てなくて……)
愛くるしい笑顔を見せる双子の妹。長い髪はふわふわしていて、いかにも少女を連想させる風貌。何もかも妹と比較されてそれでも劣等感の固まりにならなかったのは、結依の純粋な愛のおかげだというのに。
どうしようもない矛盾に溜め息をついて、彩は机に突っ伏した。
「お姉ちゃん……どうしたの? 具合悪い?」
「なんともない」
「なんともなくないよ。今日だって全然元気ないし……」
「生理中だから」
「ふぇ? あ、ご、ごめんなさいっ」
それ以上は追求してはいけないと思ったのか、結依は黙り、それからクラスメートたちの会話に参加し始めた。彩はそれをどこか遠くで聞き流しながら、このままじゃいけない、このままじゃいけないと脳内で竜巻のようにぐるぐる回して繰り返し、答えがみつからない無限ループの罠に陥って、辿り着くのは結局このままじゃいけないの呪文になり、そうして思いついたのが軽快な笑い声を上げる妹だった。
(……そうだ)
結依。ひとつの鋳型から作られたみたいにそっくりな双子の妹。
姉からの視線を感じ、振り向いた結依はきょとんとした。
帰宅した彩は結依にあることを伝えた。それは、
「ふぇ〜っ!? お姉ちゃんがユイになる!?」
結依が驚いて叫んだ。
――――彩が思いついたのは結依になりきることだった。
おそらく篤志は結依のような女の子然としている子が好きなのだろう。結依に出来て自分に出来ないはずはないと、彼女はここまでの暴挙に踏み切ったのである。結依のように微笑めば、少なくとも彼は自分を意識してくれると。
彩は結依に向かって頭を下げた。
「一生のお願いよ、ユイ! 一日でいいから!」
「………」
結依はしばらく黙って考え込んでいたが、やがて小さく頷いた。
「いいよ、お姉ちゃん。ただし一日だけだよ」
「それでいいわ。ありがとう、ユイ」
「うん……」
決意に拳を握る彩とは裏腹に、浮かない顔で結依は言った。
「お姉ちゃん。そんなことしても篤志くんは振り向いてくれないと思うよ」
「な、なに言って……」
「お姉ちゃんのようす変だったから。ユイ、伊達にお姉ちゃんのこと見てないもん。やめたほうがいいと思う」
つらそうに告げる結依に、彩は自分の中の何かが冷えていくような、熱くなるような、そんな不思議な感情があり、それがどんどん膨れ上がっていくのを感じた。そして次の瞬間には、感情的に怒鳴りつけていた。
「うるさいわね! ユイにあたしの気持ちなんてわかるわけないでしょ!」
「お姉ちゃ」
「気安く呼ばないで! あんたなんかにあたしの気持ちがわかるわけない。あんたなんかに……」
「お姉ちゃん! ユイは」
「聞きたくない! いい! 明日の予定は言った通りにしなさいよ!」
びりびりと響く声で結依を怒鳴りつけた彩は、そのまま部屋から飛び出していった。
ひとり取り残された結依は、いまにも泣きそうな面持ちで呟いた。
「おねえちゃん……」
作品名:好きして! sister&darling 作家名:ジェストーナ