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よもぎ史歌
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明智サトリの邪神事件簿

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牢獄


 自動車はしばらく走った後どこかで止まり、わたしを入れた箱は運び出された。わけがわからないけど、車の中で転がってあちこち体をぶつけてるよりはいい。
 木箱のフタが開かれ、わたしは床に放り出される。
 よかった、そこにはちゃんと先生もいた。先生も縛られたままだけど、一人ぼっちよりはずっと心強い。
 怪人はわたしたちを見て薄気味悪く笑う。
「あとでゆっくり可愛がってあげますよ……」
 そして、鉄格子に鍵をかけて去っていった。
 って、鉄格子!? 必死に転がって部屋を見回すと、そこは本当に牢屋だった。廊下から漏れる電燈の光が、無機質なコンクリートの壁を照らしている。あの人が警察なわけはないから、ここは個人的に作った部屋だろうか。だとしたら悪趣味すぎるんですけど……。
 とりあえず、これからどうしよう。
 先生に指示を仰ごうとすると、先生を包んだ繭は見る見るうちに縮んでいく。
 そっか! 先生は大人に変装していただけだったんだ。やがて糸の束から、いつも通りのちっちゃい先生がよちよち這い出した。
「やれやれ。『素材』にするならもっと丁寧に扱ってほしいものだな……」
 先生は呑気に屈伸なんかしちゃってる。
「ん~ん~! ん~んん~んん~んんん~んんん~!」
 訳:先生、早くわたしを助けてくださいよお!
 先生はようやくわたしに気付いた。
「ン? いつまで芋虫ごっこしてるんだ小林君。さっさとショゴスで切りたまえよ」
「ん!」
 そうだった! わたしにはピッポちゃんがいたんだ。気が動転してすっかり忘れてたよ。
 心の中で念じると、ピッポちゃんはスルスルとミミズのように細くなってバッグから抜け出し、そのままわたしの身を包む糸からも抜け出した。
「ピッポー!」
 そして獣のような手を生やして、鋭い爪で糸を切っていった。
 ぷはっ!
 わたしはようやく、口と体の自由を取り戻した。
 あああもう、体中痛いよ……。
「ありがとう、ピッポちゃん」
「ピッポー」
 ピッポちゃんは鳥の形に戻っていく。
「ふむ……車の進行方向と走行時間から考えて、ここは麹町区の屋敷町だろう。この辺りは寂れているし、人目もつきにくい。隠れ家にはうってつけだ。しかもここは地下室のようだな。これも『蜘蛛の支配者』の習性か……?」
 先生は何やらぶつぶつ推理している。
「も、もう、先生ったらなんでわざわざ捕まったんですか!?」
 先生はいつでも抜け出せたはずだ。怪人に捕らわれることなく、あのときやっつけちゃえばよかったのに。
「奴の隠れ家を突き止めたかったんだよ。あの場で下手に退治すると、里見芳枝の居場所はわからないままになってしまうだろう?」
「あ……た、確かに……」
 さすがは先生だ、ちゃんと計算した上での行動だった。わたしは危機に陥ると、何も考えられなくなってしまうのに。
「もちろん、あの蜘蛛男も放っておくつもりはないよ。だがまずは失踪者を捜そう」
「は、はいっ!」
 しっかりしろ、わたし! これでも先生の助手なんだから。
「でも先生、どうやってこの部屋から……?」
「ショゴスを鍵代わりにするんだ」
 あ、そっか。ほんとピッポちゃんは便利だなあ。万能七つ道具みたい。……でも。
「ショゴスじゃないですよぉ、ちゃんとピッポちゃんって名前が──」
「ピッポー」
「どっちでもいいから早くしたまえ……」
 ピッポちゃんは鉄格子の隙間から廊下側へ抜け出すと、錠前の穴にぐにゅっと体の一部をねじ込んだ。私は鍵の形を想像する。ピッポちゃんが何度か体を回転させると、ガチャッと錠前が開いた。
「あ、開きました!」
「よし、行くぞ」
 わたしたちは静かに牢屋を抜け出した。

 閉じ込められていたのは、わたしたちだけじゃなかった。廊下に沿って牢屋が並んでいて、若い婦人が何人も閉じ込められていた。
 わたしたちは次々と鉄格子を開き、その身を縛っている糸を切ってまわった。こんなところに閉じ込められて、さぞかし怖くて、心細かっただろう。助けられた途端に、泣いて抱きついてくる人までいた。わたしだってこんなところに放り込まれたら、すぐにおかしくなってしまう。
「稲垣は表向きは美術商だが、夜な夜な蜘蛛男となり街を徘徊して、気に入った女性をさらっていたんだ。ところがある日、事務員募集に来た里見芳枝を気に入り、その場で捕まえてしまった。早くから店仕舞いをしていたのは、足がついてしまったあのビルから撤退する準備をしていたからだよ」
「そして、わたしたちを入れた箱と一緒に、この隠れ家に帰ってきたってわけですね……」
「怪人になった時点で、人間の生活などいつでも捨てられたのさ」
 先生は一人一人助けるたびに指示した。
「ここで騒がずに待っていてください。我々が退路を確保しますので」
 そう、蜘蛛男もいるし、外にはどんな危険があるかわからないのだ。うかつにみんなで一斉に出るわけにはいかない。
 やがて、わたしたちは見覚えのある洋装の婦人を見つけた。わたしは走り寄る。
「里見芳枝さんですね? 絹枝さんからの依頼で助けに来ましたよ!」
 糸を切ってあげると、彼女は少し驚いて、
「あ……ありがとう……。あ、あなたたちは……?」
 確かに、わたしたちは見た目、謎の少女二人組でしかない。先生とわたしは声を揃えて答えた。
「探偵です」