星と月と幽体
「実はね、片思いの彼に可愛い彼女がいるのを知って、落ち込んでいたんだけどね。やっと前向きになれた所だったのよ」
ルナとデートするようになって2回目に、ルナは幽体離脱した日の心境を語った。
「最初の頃はね、失恋の歌をいっぱい聴いて、泣いていたの。それに飽きてきてね、Youtubeで色々な曲を聴いているうちに、歌詞の無い歌の無い楽器だけの演奏のほうが心を洗ってくれる気がしたんだぁ」
「ああ、それはわかるなあ。オレも毎日音楽聴いているから」
「それでね、ある日奇妙な心躍るような曲に出会って、夢中になってしまったの。そしたらね」
オレはそこまで聞いて、もしかしたら自分が幽体離脱をしたあの曲かなと思った。
「信じてもらえるかなあ」
ルナが心細そうな声になった。
「たぶん、いや絶対信じられる気がする。だって」
オレだって経験しているんだから、と言おうとする前にルナは、話の続きを始めた。
「幽体離脱よ~、コントでやってるけど実際にやれるなんて知らなかったから、びっくりしたわ」
「ああ、世界中にいっぱいいるらしいよ」
「そうらしいね、あのあと調べてみたんだぁ。それでね、その日は神様にお願いしてしまった。ふふふ、新しい恋人に出会えますようにって」
「それでそのまま幽体離脱? オレに出会ったというわけか」
「やっぱりそうだったんだぁ、最初驚き過ぎてわからなかったけど、ああもしかしたらこの人が運命のひとじゃないかなと思ったんだ。すぐに消えてしまったから確信はもてなかったけどね、握手もできなかったし」
そこでまたルナは笑った。
気がつくとオレは手を差し出していた。気付いてルナも手を差し出した。
オレは、ゆっくりと確かめるようにルナ手を握った。握ったルナ小さな柔らかい感触の手から、幸という字と嬉という字がどんどん自分の身体に入り込んでくるような気がした。