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砂金 回生
砂金 回生
novelistID. 35696
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トレーダー・ディアブロ(7)

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二〇〇九年 三月 十六日

 アメリカ、カルフォルニア州ランチョ・パロス・ベルデス市。
 ホルヘ・グレリアは西京育也の自宅のインターホンを押した。
 西京の自宅はパロス・ベルデス半島の南端に位置する断崖絶壁にあった。周辺の土地も彼が買い占めてしまったので、この断崖絶壁にあるのは彼の自宅のみである。彼の話では、夕日を見るのが好きだという理由で、彼はこの場所に自宅を建てたのだが、周囲から隔離されたこの場所は、まるで西京が他人との接触を避けている様にも見えた。
 暫くすると、ドアが開き、ロミーナがグレリアを迎えた。
「ボス、如何なされましたか?」
 彼女は表情を変えずに聞いて来る。
 まだ平日の昼間なので、西京はトレーディングルームで仕事をしている筈だ。
 実は、グレリアは秘書のロミーナに彼がトレードしている間の身の回りの世話をする様に命じていた。それは、彼がニューワールドの運用を始めた頃からなので、もう二年になる。今では彼女はグレリアの秘書というより、西京家の家政婦の様な存在になっていた。
「ロミーナ、すまない、ディアブロはいるか?」
「育也様は、ただ今トレード中です」
「育也様? あ、ああ……、それは分かっている。急用なんだ……!」
「分かりました。暫くお待ち下さい……」
 彼女はそう言うと、奥に消えた。
 多分、西京の趣味だろう。彼女はスーツではなくスカート丈の短い黒のメイド服を着ていた。グレリアは彼女の後ろ姿を見て、気難しいロミーナがよくあんな格好をしてくれたものだと感心した。
 暫くすると彼女は戻って来た。
「育也様がお会いになるそうです。ただし、育也様はただ今トレーディング中ですので、お話はトレーディングルームでお願い致します」
「ああ、構わんよ」
 グレリアは頷いた。
 彼はロミーナの後ろについて西京の自宅を奥へと進んだ。
 その家は一人で住むには余りに広かったが、ロミーナがいるお陰で綺麗に片付いていた。
 彼女はダイニングを横切り、リビングの一番奥に備え付けてある暖炉の前に立った。
 実は、グレリアは西京のトレーディングルームを訪れた事は無い。グレリア自身が資金集めで忙しかった事もあるが、彼が西京に会うのは、西京がトレードを終えた後の夜か週末、外で食事をしながら、と決まっていたからだ。
「……で、トレーディングルームはどこだ?」
 グレリアは暖炉の前から動かないロミーナに聞いた。
「ここです」
 聞かれたロミーナは、表情を変えずに暖炉の上にあるボタンを押す。
 すると、なんと暖炉がゆっくりと右にスライドした。そして、元々暖炉があった場所に鉄の扉が現れたのである。
「おいおい、マジかよ……!」
 グレリアは暖炉の後ろから現れた扉に、驚きを隠せなかった。
「まるで、スパイ映画だな……」
 彼は感心して呟いたが、ロミーナが既に扉の方へ歩いていたので、慌てて後に続いた。グレリアの反応は、ロミーナにはどうでもいいようである。
 彼女が扉のインターホンを押すと、そこから西京の声がした。
「カムイン」
 その声を確認して、ロミーナは扉の取手を掴み、グレリアの方を伺った。
「どうぞ」
 彼女はグレリアに一言声をかけると、扉を開けた。重厚な鉄の扉が音を立てて開いた。
「どうも……」
 グレリアは、一度ロミーナの方に目をやって、トレーディングルームの中に入った。
「なんだ、これは?」
 彼はその部屋に入った瞬間に声を上げてしまった。今度は先程よりも、更に驚きを隠せない。いや、信じられないといった表情だった。
 そこにあったのは、普通のトレーディングルームではなかった。
 通常、トレーディングルームというと、モニター画面が二つか三つ付いたパソコンが二台程置かれたスペースの事だ。パソコンの画面が多いという他は、普通のオフィスの机と何ら変わりは無い。グレリアは、ディアブロの事だからモニター画面は通常よりも多いかもしれない、という程度に考えていた。しかしグレリアが足を踏み入れたトレーディングルームは、彼の想像を遥かに超えた場所だった。
 そのトレーディングルームはドーム状になっており、壁が全てモニターで敷き詰められていた。モニターの画面は黒色で統一されており、その中に白色で株価や為替、商品の銘柄の値段のチャートが表示されていた。一体、いくつのモニターが設置されているのか、一見しただけでは分からない程多い。黒い画面に白色のチャートがいくつも、三百六十度何処を見回しても見られた。その部屋が丁度ドーム状になっているので、まるでプラネタリウムにいる様な錯覚に陥る。その部屋の大きさも丁度プラネタリウム程だ。
 まるで、暗い夜空に幾つも輝いている星の様に、チャートが辺り一面に散りばめられていた。
 グレリアはそのプラネタリウムの中で言葉を失い、立ち尽くしてしまった。
 すると、彼の耳にキーボードを叩く音が聞こえてきた。
 彼が音のした方に目を向けると、そこに西京育也がいた。彼は丁度プラネタリウムの中心にいたのだ。
 そこには、本物のプラネタリウムの様に、大きな球体が置かれていた。本物のプラネタリウムとの違いは、本来ここには星空をスクリーンに映す為のプロジェクターが設置されている筈だが、ここに西京の机があるという所だ。
 西京は透明の大きなガラスの球体の中で、一心不乱にキーボードを叩いていた。そして、彼がキーボードを叩くのに反応して、彼の机の画面に注文の結果が表示されていた。
 その画面は凄まじいスピードで成立したトレード結果を伝えていた。
 バイ……、ダン。セル……ダン。セル……ダン。
 暗い部屋の中でにキーボードを叩く彼は、まるでチャートの星々の中に浮かんでいる様に見えた。彼は三百六十度、チャートの星座に囲まれた宇宙の中でトレードをしていたのだ。そして、その宇宙の中心に西京が座っている球体があった。球体は人間一人がやっと入れる様なスペースだった。その中には、トレード用の机がすっぽりと入っている。彼の座っている椅子にはレバーやボタンが付いていて、まるでロボットアニメのコクピットの様にも見えた。
 ふと、西京が右手で椅子のレバーを触った。
 すると、ガラスの球体を支えていた支柱が動き、球体を上に持ち上げた。
 どうやら椅子のレバーを操作する事によって、自分が乗っているガラスの球体をドームの好きな場所に移動出来る様だ。
「どうした、ホルヘ。何か問題でもあったのか?」
 西京はコクピットの中で、キーボードを叩きながらグレリアに聞いた。
 グレリアは暫く唖然として、西京の様子を見ていたが、彼に話しかけられた事に数秒遅れで気付き、我に返った。
「あ、ああ。すまん……。実は今日うちにアメリカ合衆国社会保障局の人間が来た」
「社会保障局?」
 西京のキーボードを叩く指が止まった。
「ああ。何でもアメリカの年金を運用する新しいプロジェクトチームにニューワールドのトレーダーも参加して欲しいそうだ。合衆国の未来の為に、是非力を貸してくれとそいつは言っていたよ」
「あいつら……、トレード勝負では勝てないものだから、今度は俺達を抱き込もうって魂胆か……」