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砂金 回生
砂金 回生
novelistID. 35696
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トレーダー・ディアブロ(5)

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 確かにこれは悪い話ではない。ホルヘがこのファンドを販売すれば、その運用資金の二パーセントが毎月彼の懐に飛び込んで来る。十億円に対し、毎月二千万円がノーリスクで入って来るのだ。現在のホルヘのファンド、ニューホライズンの総資産三百億ドルを全て新しいファンドに移行するだけで、毎月六億ドルのマージンが発生する。日本円で約四百八十億円だ。
「し、しかし良いのか、ディアブロ? これではお前だけがリスクを背負い、投資家も販売元もノーリスクで利益を得る事になるぞ! 確かにお前のトレード技術はとんでもないが、万が一失敗した時は、生きてはいられないぞ?」
「大丈夫さ。俺がトレードで失敗する事は有り得ない。もし、俺に生きていられない事が起きるのであれば、それは別の理由だと思うぜ……」
「何?」
「いや、何でも無い、ホルヘ。あんたの答えを聞きたい」
「フ……」
 グレリアは鼻で笑うと、その手を西京に向けて差し出した。
「お前は本当にとんでもない奴だな……。分かった。俺はニューホライズンを解散させて、その全ての資金をお前に預ける。投資家の奴はさっきの運用利率を聞いたら、二つ返事でオーケーするだろうさ……。後は世界中を飛び回って、集められるだけ金を集めてやる!」
 西京は差し出された手を固く握った。
「有り難う、ホルヘ!」
「ところで、俺達の新しいファンドの名前は……?」
 西京はニヤリと笑う。
「ニューワールド」
「ニューワールドか……。確かにこの運用利率で、しかも元本保証だ、世界中から資金が集まるぜ。お前、本当に世界を変えるつもりなんじゃないか?」
 グレリアは冗談で言って、ハハハと笑い飛ばした。
 しかし、彼は西京と目が合うと笑うのを止めた。
 西京の顔はニヤリと笑ったまま、目だけは笑っていなかった。その能面の様な顔を見て、グレリアは寒気を感じた。
「ま、まさか、お前、本当に……?」
「有り難う、ホルヘ。恩に着るよ……。俺は早速、家に帰って仕事の準備に入る」
 西京はそう言うと立ち上がり、出口へ向かった。
「お、おい……、待てよ、ディアブロ……!家って、お前今は何処に住んでいるんだ?」
「パロス・ベルデス……。俺は海が好きでね。夕日の見える丘に、家を買ったんだ。今度、遊びに来てくれよ」
 そう言い残して、西京は出て行った。
 彼が社長室から出ると、グレリアはため息を付いた。
 ニューワールド――、毎月三パーセントで元本保証のファンド。そんな物が世の中に出回ってしまったら、一体何が起こるのだろうか……。
 暫くすると、ロミーナが部屋に入って来た。
「どうでしたか、ボス?」
「ああ、そうだな。取り敢えず役員会の準備をしてくれ。ニューホライズンの資金を全てディアブロに預ける」
「本気ですか?」
「ああ」
「分かりました」
 ロミーナは一礼して、社長室を出ようとする。
 しかし、グレリアは意を決した様に秘書を呼び止めた。
「あ、それとロミーナ、不動産屋に連絡を取ってくれ。俺は引っ越しするよ、パロス・ベルデスに!」