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 その日はずっと雨が降り続いていた。まるで今日起きることを予期していたかのような。         
 ふさわしい舞台。
 私はそんな天気であるのにも拘らず外に出た。
 目的は特にない。強いて言うのならば神の御導きがあったからだ。
 昼近くの繁華街。街を行き交う人々。いかにも頭の悪そうな女子高生。仕事に追われるサラリーマン。幸せそうに歩く恋人達。
 駅前の巨大スクリーンからは連日起こるこの事件の被害者数を知らせている。
 日に日に被害者は増え、もうこの国の半分の人間が死んでいた。
 もう既に政府やその他の機関が動いていないことは明白だった。
 私は腕時計を見た。正確に時を刻み続ける。
 それは終幕までの時限装置。
 あと、少し。
 時計の長針と短針と秒針が次第に一つの地点で重なろうとしている。
 そして、
 …………………………。
 カウント・ゼロ。
 瞬間。
 一斉にそこにいた人間達やスクリーンの先にいる芸能人も、誰もが苦しみ悶えだした。
 私だけを除いて。
 人々は苦しみ苦しみ苦しみ苦しみ苦しみぬいたあとで、どんどんと濡れた大地に倒れていった。
 残ったのは人間が造りだした建造物と、やかましい音楽と……私……だけだった。
 手が、足が、全身が、そして心臓が震えた。
 あまりに美しい瞬間を目の当たりにして、震えが止まらなかった。
 もう、この国には誰もいない。
 それは私の中で確信になっていた。
 だけど……。


 水のはねる音。私の真後ろ。人の気配。
「美しかったわね。愚かな人間達が次々と死んでいく様は」
 聞き覚えのある声。私の最もよく知っている声。私自身の声。
「これで、あなたの望みは叶ったわね」
 足音が近付いてくる。
 私は真後ろの方向に振り向く。
「ねえ。そうでしょう」
 私は私を見た。
 姿形が全く私と違うことの無い人物。
「ドッペルゲンガーってご存知」
 もう一人の私は言う。優雅な笑みを浮かべながら。
「私はあなたの欲望を叶えるために現れ、あなたの望むとおりの事をした。忠実な下僕のようにね。
 そして、それは今こうやって終わりを告げた」
 彼女の瞳が私の瞳を見る。映るものはお互いに同じもの。同じ私自身。
「これで私の役目は終わった。
 だけど、ここから始まるのよ。
 私の人生が」
 彼女が次第に私との距離を詰める。
 優雅な笑みから歪んだ笑みに変わる。
 腕が上がり、私の首に焦点をあわせる。
 ドッペルゲンガーに出会った者の最期。
 それは、
「!!!」
 先に首に手が伸びたのは私のほうだった。私の手で、もう一人の私の首を絞め始めた。
「……何を……するの」
 呼吸することも出来ず、濁った声で彼女は言う。
「そうね、確かにあなたは私の望みを叶えてくれた。でも、まだ完全じゃない」
 手にだんだんと力を込めていく。それと共に彼女の顔は苦痛に顔を歪めていく。
「あなたがいるから」
「……どうして……」
「あなたは邪魔なのよ。
 ・・・さようなら、忠実で、そして愚かな、私の……・・・下僕」
 その言葉と同時に彼女から全身の力が抜けた。
 手を離すと彼女は大きな水飛沫を飛ばしながら、アスファルトの地面に落ちた。
 ……………………。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」
 笑いが止まらなかった。あまりにも愉快すぎて。私はずっと笑い続けた。雨音の中に私の笑い声が響き渡った。
 
 そして、私は笑い終わった後にあることに気付いた。
 まだ私の心は満たされていない。
「モットオモシロイコトハ、ナイノ?」  
 この国には、モウ、ダレモ、イナイ……。
作品名:inter-Last 作家名:砌 朱依