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 ツマラナイ。
 最近、なにもかもが。
 何か素敵な刺激はないのかな。
「……井ぃ。……浅井、聞いてるのか」
 突然私の耳の中に入って欲しくない類の音声が聞こえた。
「お前、ずっと窓の外のほうを見て、授業聞く気ないのか」
 顔も声も体格も性格も気に入らない教師の授業。
「はい、ありません」
 だから私ははっきりと答えてやる。
「それならばさっさと出て行け!」
 最悪な怒鳴り声が教室中に響き渡る。ただ大きな声を上げれば言うことを聞くと思っている、馬鹿な人間。
 ただそれだけで自分の威厳が保てない可哀想な奴のために私は従ってやる。最も言われなくても私は出て行くつもりだった。
 こんな人間はゴキブリみたいにすべての人に忌み嫌われたまま、孤独に醜く死ぬのが似合ってる。
 そうすればちょっとは私はこいつを認めるかもしれない。
 私を楽しませてくれたお礼として。
「まぁた浅井じゃん」
「受ける気ないならなんで来てるのよ」
「そのくせ、成績良いんだからすっごいムカつく」
 自分たちの中では本人に聞こえてないと思って陰口を叩くクラスメイト。
 じゃあ真面目に授業受けているのに私より馬鹿なのは何故ですか?
 逆に私はそう尋ねたい。もし尋ねたら彼女達は今以上に嫉みの目で私を見るだろう。
 でも事実だから仕方がない。
 だからせめて一斉に毒を飲んで私の目の前でバタバタと倒れて死んで下さい。
 それくらいしか出来ないのだから。
 外へ出る。
 灼熱の太陽が私の肌を照射する。その上空気までもが私の体にまとわりつく。
 キモチワルイ。
「最悪」
 ツマラナイ日常。


  家に帰ると母親が居間で寝転びながらテレビを見ていた。
 醜い姿。
 ブラウン管から聞こえてくる声。
 ・・・女優の………が離婚。原因は夫の女遊び。
 そんなくだらないことを真剣になって彼女は見ていた。
 国の政治とか、どこかの殺人事件になんか興味を持たないくせに、こんな他人の離婚話には興味津々になっている。
 愚かな母親。
 私は本当にこの女の胎内で生まれ、この女の遺伝子を受け継いだとはとても思えない。
「ちょっとぉ、あんたまだ学校なんじゃないの。なんで帰ってきるのよ」
 母親が私の姿を見つけると、突然母親らしく振舞ってくる。
「あんた、最近遅刻とか早退とか多いんじゃないの。担任の先生が電話で言ってきたわよ」
 あの、無能な教師か。無理矢理生徒にちかづこうと余計なことしかしない男。
「ねえ、ちょっと聞いてるの」
 五月蝿い雑音ならきちんと聞こえていますよ。くだらない事を話しているってことくらい分かっていますよ。
「ねえ、返事くらいしなさいよ」
 私は母親を振り切ってそのまま階段を上がる。
「お母さん、あんたの考えてることが分からないわ」
 涙混じりの声が聞こえてくる。
 その言葉をそっくり返したい。私もこの女のような愚かな人種の考えてることなんか全く分からない。どうして、泣くのか分からない。
 やっと自分の部屋に辿り着く。この世界の中で唯一私の心の平穏が保たれる場所。
 唯一のアルカディア。
 そして、私は大きなため息をつく。
 クダラナイ日々は続く。

 
 最近、世の中は少し騒がしい。面白い事が起きているからだ。
「また、……高校の女子生徒が死亡しました。体内から多量の毒物が発見されており、最近起きている一連の事件と同様の犯人によるものと思われ、捜査が続けられています。被害者の名前は……さん。これで今回の事件による被害者の数は5名となりました」
 テレビに、私の知っている顔が映し出される。同じクラスの人間だ。彼女だけではない。今まで死んだ5人全員がそうだ。そして、私を嫌っていた邪魔な人間達だった。
 目の前で死に逝く姿を見ることができなかったのは残念だったが、これで少しは学校も面白くなるかもしれない。
 だが、今はその学校も臨時休校だ。
「……これほど多くの犠牲者をだしたのは、学校側の対応に問題がある上に、警察にも問題があるのでしょう……」
 自分では何もしないくせに、無責任に偉そうな事を言うコメンテーター。物騒な事件が増えるほど、彼らはお金を得られる。単純な構図。
「……とにかくこれ以上の犠牲が出ることなく事件が解決して欲しいものです」
 そう締めくくって次の話題に移る。
 ……冗談じゃない。これくらいで終わったらまたつまらない日々に逆戻りしてしまう。
 私はもっともっとタノシイコトを求めてるのに……。


 臨時休校になっても死者の数は増えるばかりだった。しかも、私のクラスの人間だけが次々と死んでいく。不可解な事件。
 そして、私の親友も死んだ。
 私の目の前で。
 血を吐いて、苦しみ、悶え、倒れていく様子はとても美しいものだった。
 まるでルネサンス時代の宗教画のように。  
 私の魂に響いた。
 彼女の死で明らかになった事実が三つある。
 一つは、このクラスの女子の中で唯一残ったのは私だけであること。
 もう一つは彼女の死をもってしても、まだ私の心は満たされていないということ。
 最後の一つは、この事件がただの前奏曲(プレリュード)に過ぎないということ。
 私の胸を焦がす、その時への……。


 周りの事態は更に悪化していった。
 私の学校に通っていたうじ虫のような生徒達は皆死んだ。
 醜い母親も役立たずの父親も無知で無能な妹も死んだ。
 事件解明を急ぐ警察官達も事件に脅えていた近所の見知らぬ人間達も全て。
 毒を飲んで死んだ。
 私を中心として沢山の人間がただの肉塊になっていることは容易に想像がついていた。
 まるで私の意志を読んでいるかのように。
 邪魔な存在はどんどんと消えていった。
 そして、
 予感がする。
 カウントダウンは始まっている。
 美しき終幕(フィナーレ)まであと少し。

作品名:inter-Last 作家名:砌 朱依