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レンアイ至上主義型人生論

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レンアイ至上主義型人生論

「先輩。恋愛とは一体どういうことなのでしょうかっ!」
「え、あ、なんなのでしょうか……」
 その日、私は思い切ってバイト先の先輩にそう質問してみたのですが、その時の話です。
 私が勤めているバイトは、場末のコンビニです。テナントビルの上にはよく分からない団体の事務所がある所為か、夜になるといよいよ客の入りも少なくなってきます。このコンビニが続いているのは、ひとえに近くに学校の類が乱立している所為で昼間の客入りが多くなる為でしょうか。
 だからと言って、完全に客入りがなくなるかと言えばそうでもないのです。ちらほらとですが、お客は姿を見せます。ただし、暇な日はかなり暇となるのです。
 その日は都合よく、客入りが皆無でした。多分、雨が降っているからでしょう。だから、私はそんな質問を先輩にしたのでした。
「なんだ、先輩なら知ってるかと思ったのに」
「そんな風に見えるかなぁ……」
「ええ、だって男の人も女の人も入れ食いでしょ?」
「そんな風に見えるかなぁっ!」
 ――割りと真剣に。
 この先輩は中性的な容姿で、男の人にも女の人にも見えてしまいます。だからか、どっちもいけるタイプの人ではないかと前々から思い込んでいました。
「残念だけど、そんなに経験は豊富じゃないよ。むしろリア充爆発しろとかクリスマスの日に書き込むタイプの人間だから」
 そうなのですか。可愛い顔をしているのに、勿体無い話だと思います。普段の格好が野暮ったいから、経験が少なめなのでしょうか。
「でさ、いきなりそんな話を振るってどういうことなの?」
「えーっとですね、学校の友達が言うのですが」
 ――まじぃ、男と付き合ったことないの? うっわぁ、寂しい人生。レンアイしたことのない女って、マジツマンナイよ。レンアイってさ、やっぱ人生なんだわ。うんうん、だからあんたもとっとと男捕まえときなさいよ。
「って……」
 言い終わる頃には、先輩は頭を抱えていました。何故でしょうか。
「どうしたのですか?」
「い、いや、会ってもいないJKにハートをブレイクされたよ……」
 JK? 何の略でしょうか。
「恋愛ねぇ。というかその子も恋愛が何であるかって分かってないんじゃ……」
 先輩は、友達の頭の悪さを何となく感じ取ったらしい。悪い子じゃないのだけれど、ちょっと足りない子だったりします。
「で、結局なんなのでしょうか?」
「その辺は、君は分かっていると思うけど」
 だからこの人は侮れない。こっちが気付いていることとかを見透かしてくるのです。だから、今回このような話題を振ったのです。
 ――要は男と女の情事ということでしょうか。そこにそれ以上でも以下でもないはずです。であるのに、恋愛というのは人間を評価する際にとても大きな意味を持ちます。
「恋愛ってのは人間関係の一形態を表す言葉ではあるんだけど、ソレが人生とは、大きく出たものだよ」
「あの子の言うことのどういうところが問題なのですか?」
「そもそも人生って言葉が曖昧すぎる。人が生きていたら、そりゃ人生でしょ。拡大解釈すればそりゃなんでも人生だもん。暴れる怪獣の下敷きになるのも人生なら、核爆弾を作ってしまうのも人生だからね」
「なるほど、そもそも何かを『人生』と表現するのは卑怯ということですね」
「……そこまでは言わないけれど」
「アレは文学、ソレは人生と言うのは卑怯ということですね」
「なんでそんな妙に敵を作るようなことを言うかなぁっ!」
「ふむふむ。友人がアレな有限会社に連れ去られたと勘違いしてその有限会社の本拠地に乗り込んで撃たれてしまうのも人生なのですね」
「誰だっ! 誰から聞きやがったっ! あのダコかぁっ! 喋りやがったなぁっ!」
 数奇な人生を送っている人もいるものですねぇ。
「いつかあのエセシティハンター、殺って殺る……」
 等と、不穏なことを言っている先輩をさておき、やっぱり恋愛がどういうものなのか分かりません。
 先輩が言うには、人間関係の一形態。それでは、他の形態があるものでしょうか。
 例えば、敵対。例えば、親子。例えば、兄弟。例えば、姉妹。そして師弟関係。恋から愛に至る恋愛などなど。
 持論で言えば、恋と愛は違うものです。恋とは下心、愛は真心だと、まああの国語教師ではないが思っているのです。
 じゃあ、恋愛って何だ? 恋と愛、下心の意味を持つ恋と、真心の意味を持つ愛の両方を組み合わせた言葉。恋愛関係、恋愛感情と簡単に言いますが、その形態はどのようなモノであるか、私は知らないのです。
 そのことを、先輩に聞いてみる。
「恋と愛ねぇ。個人的な意見で悪いけど、恋は相手を欲すること、愛は相手に与えることだと思ってる。君だと、その辺から自ずと答えは出せると思うけど」
 なるほど、私の意見と似て非なる答えでした。語感だけなら、先輩の言い方は柔らかめに感じます。そしてその意見から導き出される答えは、損得勘定でした。相手を欲するから相手に与える。等価交換のカンケイですね。恋愛とはその損得のやり取りを表す言葉なのでしょう。
 じゃあ、なんで恋愛をする人間は、満たされているのでしょうか。何故人は恋愛を求めるのでしょうか。行っていることは等価交換なのに、何故払ったものより多くのものを得ることができるのでしょうか。
 ――それとも、得ているような気がしているのでしょうか。
 すると、先輩は見透かしたようにこう付け足しました。
「ところで、自分が求めているものって、支払ったものより価値あるもののような気がしない?」
 すとんと、その言葉は私の疑問の穴を埋めてしまいます。
 ――実際に見透かしているのでしょう。いつものこの人はそうだ。こっちの望んでいるタイミングで、こちらの欲しいものをくれる。
 恋愛をするなら、こんなタイプがいいのでしょうか。私は先輩の顔をじぃっと見つめてしまいます。
「……?」
 先輩はその視線に気付いたのか、可愛らしく首を傾げます。
「――でもまあ、まだ私には早いのかもしれません。まだ私は、それが欲しいものなのか分かりませんし」
 私はそう呟いて、横目で先輩の顔を見つめているのでした。