俺とみこの日常 7話
話が終わって、部室に帰ると、先輩一人しかいなかった。
「あれ?桜は?」
健太がそう聞くと、
「今日は用事がある、とかなんかでもう帰ったぞ」
と、返事が来た。
「いやな、俺も帰ろうかと思ったけど、お前らが戻ってこないと帰れないだろ?」
「まあ、そっすね」
「よし、全員帰ってきてるし、もう今日は部活おしまい」
「「「「はーい」」」」
部室から昇降口までの間、俺は『太郎はバレンタイン嫌いじゃなかった』と、詳細も交えて話した。
すると爽やかな笑顔で、
「じゃあなんだ、お前は怒られ損ってことか?」
そう言われた。そう言えばそうだよね。なんで俺怒られたんだろう…。
「はっはっは、そう凹むな」
「…凹みますよ」
「落ち込むなって。あ、そうだ。話は変わるけどいいか?」
「…なんですか」
すると、先輩は俺の方へ近づき、小声で言ってきた。
「お前、明日俺の妹と会う機会ある?」
明日優美ちゃんと会う機会?
「ないと思いますけど…」
なんでこんなことを言ってきたんだろう。
「いやな、あいつの机の上に恐ろしいものが置かれていてな…」
「恐ろしいもの?」
なんだろう?妹から兄への本命のチョコとか?
「優美の好きな人が誰だかわかるか?」
遠回しな言い方だなぁ。優美ちゃんの好きな人か…。
…一人しか思い浮かばない。
「……言っても、怒りません?」
「俺が怒るわけないだろ?」
「……みこです」
「ん?」
もう一度、という意味の『ん?』のようだ。ま、そりゃそうだよね…。まさか妹が同性愛者だなんて信じられないよね…。
「長谷川優美の好きな人は、天野みこです」
一応、『は、天野』の間には、多分というのは入れておいた。…ものすごく小さな声で。
それを聞いた先輩は少しの間黙っていた。
俺が言い終わって少しした頃、具体的にはもう靴をはき終えて外に出ようか、という頃。
「…それじゃ、俺からの注意な」
先輩が再び話し始めた。
「みこちゃんに言っといてくれ。もしも優美からチョコを貰っても絶対に食うなって。あ、お前も食うなよ?」
「はい、わかりました」
素直に答えておく。
「分かったな?絶対だぞ!」
先輩はそう言って、自宅の方へ向け、走って行った。
…そう言えば、先輩は一体何を見たのか、を聞くのを忘れてたな…。
作品名:俺とみこの日常 7話 作家名:ざぶ