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携帯電話

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「機種変更ですか?」
「そう、お願いします」

今、高見沢一郎は携帯電話販売店に立ち寄っている。
そして、デスクカウンターの前に座って、応対の若い女性担当員に携帯電話の機種変更を申し込んでいるのだ。

「それで、お客様、どういうタイプがお望みですか?」
お姉さんが事務的に聞いてきた。

高見沢は少し黙り込んでいたが、すでに決心は付いている。
そのためか、少し強目の口調で返答する。

「もう何の機能も要りません、メールもウェブもツイッターも要らないのですよ。
通話だけできるシンプルなケイタイにしたいのだけど・・・そんなのありますか?」  

これを耳にした女性スタッフは驚いた面持ちになった。
「お客様、今持っておられるこの機種は、最新型ですよ。
今流行ってますよね・・・ホントにいいのですか?」
お姉さんはもう一つ合点がいかないようだ。

「電話だけできれば良いんですよ。 
そう、昔のタイプにね・・・・・・戻りたいんだよなあ」
高見沢はそう自分自身の気持ちに念を押した。

「へえー、昔のタイプですよね?

だけど最近、なぜだかそういう方が結構おられるのですよ。単に通話機能だけのケイタイに変更したい、そうおっしゃられる方が・・・これって、音楽で言うナツメロブームなんでしょうか?」  

お姉さんはなんとも理解できないような表情で、高見沢の顔を覗き込んでくる。


作品名:携帯電話 作家名:鮎風 遊