カシューナッツはお好きでしょうか?
82.ふけさん
明日は、『暗黒豆腐少女』のデビューライブだ。そして、ハルカとかいう女とデートしなければいけない日だ。
あぁ、私はまた、カエデさんがアイドルとして成長する“瞬間”を見逃してしまうのか……。
そう思うと、悔しくて、歯がゆくて、心が揺れた。やっぱり明日のデートは断ろうか……。そう何度も思ったが、川島君の男泣きを思い出すと、どうしても断りのメールを送ることはできなかった。
私がそんなことを考えていると、メールが届いた。
『こんにちは。突然のメールごめんなさい。私、ハルカと言う者です。川島さんからメールアドレスを教えていただきました。この度は、無理を言ってしまい、申し訳ありません。社長さんがお忙しいことは重々承知しております。でも、私、どうしても社長さんに会ってお礼を言いたかったんです。明日、私はとても楽しみにしております。社長さんも、楽しんでくれたら嬉しいです。おやすみなさい』
ハルカ……か。少し“カエデ”と音が似ているなぁ。でも、全然違う。“ハルカ”と何度呟いても、心に響くものは何もない。でも、“カエデ”という響きには、愛しさが含まれていて、呟くたびに私の心はふわふわしてしまう。
あぁ、私はやはり、少しでもカエデさんの傍にいたい。これはわがままだろうか?
“川島君との約束”
“何故か私とのデートを楽しみにしているアイドルの心”
この二つを破るような行為をしてまで、私のわがままは存在していいのだろうか?
『カエデさんの傍にいたい』という気持ちとの葛藤。その葛藤が導き出した答えは、私のメールに込められた。
『私も、ハルカ君と会えることを楽しみにしています。ちなみに、明日のデートのことですが、商店街でお祭りがあるのですが、そこに行くというのはどうでしょうか?』
明日、商店街のお祭りで『暗黒豆腐少女』のデビューライブが行われる。商店街でデートをすれば、カエデさんの傍に近づける。それでいて、川島君との約束も果たせる。
あぁ、私はなんとズルイ男なのだろうか……。今夜は自己嫌悪で、眠れそうもない……
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ