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カシューナッツはお好きでしょうか?

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79.ふけさん



「カエデさん! 何でいなくなったの!! さすがの私も怒る……よ…………」

 私は勢いよくカエデさんの部屋に入った。怒鳴ってやるつもりだった。でも、ベッドの上で、小さく体育座りをしているカエデさんを見た瞬間、怒りはどこかへ消えてしまった。

「ふけ……さん?」

 そこにいたのは、まだ幼い、少女だった。

 私はいつの間にか、カエデさんは強くて立派な女性だと思うようになっていた。でも、それは違った。カエデさんはまだ、か弱い少女のままだった。

 ここ最近、いろんなことが少女の身に降りかかった。少女はオーディションに落ちてふてくされ、私にファーストキッスを奪われ激怒し、アイドルとしてデビューできることに胸躍らせ、今まで挑戦したことのない作詞に悩み、生臭い豆腐を食べることに我慢をした。

 そんな、あまりに急激な変化に耐えられず、どうしようもなくなって、ただ途方に暮れるしかない少女。

「カエデさん」

 そんな少女を見た瞬間、私は何故かカエデさんの名前を呼んだ。よくわからないけど、“カエデ”という響きが、どうしようもなく愛しくて、声に出さずにはいられなかった。

「カエデさん……」
 
 この言葉を呟いた瞬間、私の心に一つの感情生まれた。あぁ、この感情はいったいどこから来たのだろう? はがゆくて、暖かくて、激しくて、ドキドキして、甘くて、ぐちゃぐちゃで、それでいて静寂のように穏やかで……。

 “愛しい”ではあらわしきれない、なんとも言えない感情が、私の心を支配した。そして、この感情は心だけでなく私の体まで支配した。支配された私の体は、最短の動きで、カエデさんを、やさしく、強く、抱きしめた。




 このとき、私は自分の気持ちに気付いてしまった。私は、カエデさんのことが……好きだ。