カシューナッツはお好きでしょうか?
72.ふけさん
カエデさんが消えてから、もう7日経っていた。
「カエデさん……いったいどこへ…………」
レストラン『でべそ』でカエデさんと歌詞の話をした日以来、急に連絡が取れなくなった。初めは特に気にもとめなかったが、さすがに4,5日目には心配になり、川島くんに相談した。
川島くんは「できる限りのことはする」と言ってくれた。しかし、今だカエデさんが見つかったという連絡はない。
私なりにカエデさんを捜索しようと思ったが、私はカエデさんの住所もしらなければ、いそうな場所も皆目検討がつかなかった。私は、カエデさんについて何も知らない……。それを、あらためて思い知らされた。
「カエデさんはいったいどういうつもりなんだ! 『暗黒豆腐少女』デビューライブまであと3日しかないのに」
カエデさんのことをもっと知ろうとしなかった過去の自分に対する苛立ちもあいまって、私の心は、怒りにも似たイライラとした気持ちでいっぱいだった。
「もう、機材も手配した。衣裳も準備した。いろんな人にも宣伝した。それなのに、肝心の『暗黒豆腐少女』がいなければ意味がない。全てが水の泡だ!」
「プルルルル! プルルルル!」
「はい! もしもし!」
突如、携帯が鳴ったので、私は反射的に電話に出た。私は電話の相手がカエデさんであることを期待した。しかし、携帯から聞こえたのは男の声だった。
「もしもし? わたくしアイドル研究家の“舞茸(まいたけ)ひろし”というものですが……」
「えぇ!? ま、舞茸さんですか?」
電話の相手はアイドル業界でその名を知らない人はいないといわれる超有名人、アイドル研究家の“舞茸(まいたけ)ひろし(芸名)”さんだった。
「えっと、『暗黒豆腐少女』について、少し聞きたいのですが……あなた、『暗黒豆腐少女』のマネージャーさんですよね?」
さすがアイドル研究家。まだデビューもしていないご当地アイドル『暗黒豆腐少女』の情報をすでにゲットして、マネージャーである私の電話番号まで入手しているなんて……すごい情報網だ。
私はアイドル研究家である舞茸さんの実力に驚愕した。
「は、はい! 何でも聞いてください。『暗黒豆腐少女』は最高のアイドルなんです! きっと、舞茸さんも気に入ると思います!!」
これはチャンスだ。舞茸さんが推すアイドルは必ず売れるというジンクスがあるほど、舞茸さんの発言はアイドル業界において影響力がある。
「……とりあえず、私は舞台上のパフォーマンスを見て、アイドルの魅力を判断します。ですので、デビューライブが3日後にあると伺ったのですが、詳細を教えていただけますか?」
「は、はい!」
私は終始、頭を下げながら携帯電話越しに、舞茸さんとの会話を続けた。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ