小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カシューナッツはお好きでしょうか?

INDEX|55ページ/139ページ|

次のページ前のページ
 

48.カエデ



 私は病院を後にし、家に帰った。そして、『暗黒豆腐』について自分なりに調べてみた。


『暗黒豆腐』、

 それは豆腐店『白角』の商品。その名のとおり黒色をした豆腐である。本来白いはずの豆腐の身も心も黒く染めているのは、主に海草である。詳しいことは企業秘密ということになっている。味は……どこを調べても「不味い」とか「生臭い」といった評価ばかりだ。私も実際に食べてそう思った。

 そんな『暗黒豆腐』だが、そこそこ人気がある。それは何故か? その答えは、“『暗黒豆腐』応援サイト“にあった。よくよくパソコンで調べてみると、“『暗黒豆腐』応援サイト”と呼ばれるものがいくつも見つかった。そのサイトでは、「どうやったら『暗黒豆腐』をおいしく食べられるか?」という議論が交わされており、『暗黒豆腐』を用いたレシピが多数紹介されていた。

 そう、『暗黒豆腐』にそこそこ人気がある理由、それは豆腐自体のおいしさや面白さが要因ではなく、不味い『暗黒豆腐』をどうにかしておいしく食べようと努力する消費者にあったのだ。消費者達が互いに知恵を出し合ってレシピを考えたり、考えた料理を実際につくって食べた感想を話し合ったりする。そうして、消費者が育てていく豆腐、それが『暗黒豆腐』だったんだ。

 ここで何故『暗黒豆腐』をおいしく食べようと努力する消費者達が現れたのか? という疑問が浮かんだ。だって、他においしい食べ物が溢れている現代、不味い食品をおいしくする努力をしてまで食べる必要はないと思うから。私はその疑問を解決したくて、さらに調べた。調べているうちに、私は“『暗黒豆腐』応援サイト”の中から、『暗黒豆腐』誕生逸話の記事を見つけたので、読むことにした。

【―――『暗黒豆腐』を発売する前の豆腐屋『白角』は、繁盛しておらず、泣かず飛ばずな状態であった。店主の安岡吉次郎は野心家で、奇抜な豆腐を作っては失敗して借金を増やしていた。生クリームを練りこんだ『生クリーム豆腐』、辛子明太子を練りこんだ『明太豆腐』、麻婆豆腐を練りこんだ『麻婆豆腐』などなど、一時期、奇妙な豆腐ばかりが店頭に並んでいた。そんな時に『暗黒豆腐』も誕生したのだ。当然『暗黒豆腐』も売れなかったが、妻のキミ子は「おいしい、絶対に売れるよ」とただ一人、必死に吉次郎を励ましていた。吉次郎は「おう! 今度こそ、この『暗黒豆腐』で繁盛させてみせる! それで、お前に楽させてやるよ」とキミ子と約束をしていた。しかし、その約束が果たされる前に、妻キミ子は―――】

 私は、思わず画面をスクロールする手を止めた。『暗黒豆腐』誕生の逸話。そこには、「不味い」の一言では語れない、理由があった。ドラマがあった。人の心があった。私はそんな裏話を知ろうともせず、表面だけを見て、「不味い」と罵声を浴びせたんだ……。

 私は自己嫌悪しながら、『暗黒豆腐』誕生逸話の続きを読んだ。

【―――妻キミ子死後、約束を果たすために吉次郎は売れない『暗黒豆腐』を必死で作り続けた。その必死な姿に心打たれた仲間達が、どうにかしておいしく『暗黒豆腐』を食べられないかと、必死に考えて、いろんなレシピを考案したことが、この『暗黒豆腐』が売れるきっかけになったのである―――】

 ……そうか、だから『暗黒豆腐』は不味くても売れるんだ。いろんな人の“必死”がこもった豆腐だから、売れるんだ。……私は、アイドルとして、“必死”になれているだろうか? 

 そんなことを考えながら、私はもう一度、深く自分の行動を反省した。