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46.カエデ



「でもね、ほんとうに不味かったのよ、あの豆腐。糞まず、ゲロまずよ。私、あんなに不味い豆腐のアイドルにならなくて良かったと思う。ほんとうに。だって、あんなに不味い豆腐に未来はないもん。ほんと、あんなに不味い豆腐を作っている店主、頭おかしいんじゃないの? あんな豆腐でこの先やっていけると本当に思っているのかしら? ありゃ、クズだね。人間のクズだよ。だって、あんなに不味い豆腐を作って、人様に売って、金をもらおうとしているんだよ!? 信じられる? あたしゃあ信じられないね……」

 私の口から、罵詈雑言が溢れ出る。あれ? あたしって、こんなに饒舌だったけ? あたしは何で、間を空けず、心にもないことをしゃべっているのだろう?

 私がそんなことを考えていると、ふけさんが、怒鳴りだした。

「君は何を見てきたんだ!!」

 あぁ、そうか……。私は、ふけさんに怒鳴られるのが怖くて、ふけさんの期待を裏切ってしまったことが悲しくて、間を空けずに罵詈雑言を吐き出していたんだ……。

「あぁ、確かに不味いよ。私も食べた。生臭かったよ。でもなぁ、なんでそのまずい豆腐を店主が売っているか、君は疑問に思わなかったのかい? その不味い豆腐を買っている人の気持ちを考えなかったのか? 君は表面だけをみて、その裏にある真実をちゃんと見極める努力をしたのかい!? ……上辺だけを見て、感情だけで行動する人に、アイドルは務まらないよ」

 ふけさんの言葉、痛かった。

「……失礼する」

 ふけさんは病室から出て行った。私は一人、病室に取り残された。