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39.警察官川島



「どうしたんですか!?」

 俺が再びアイドルプロダクション『わっしょい』に戻ると、玄関ホールには人だかりができており、騒然としていた。

「もう一人、不審者がいたんですよ! ほら! こいつ全身黒タイツ姿で怪しいでしょ!? それに凶器のカッターナイフも持っているんですよ!!」

「違う! そのカッターナイフは拾ったものだ! この全身黒タイツはただのオシャレだ!! レディー・ガガの奇抜なファッションが認められて、何で私の全身黒タイツは認められないんだ!! 不公平じゃないか!!」

 全身黒タイツの男……紛れもない、「変なおじさん」だ。ハルカちゃんが「社長さん」と呼ぶ、田中敬一という変人だ。まさか、こんなところで出会えるとは……。

 このとき、俺の脳裏に悪い考えが浮かんだ。私利私欲を叶えるための、悪い考えが。しかし、俺は欲望を抑える手伝いをするために警察官になったのだ。そんな俺が、自分の欲望を叶えるために、この悪い考えを実行するわけにはいかない……。しかし、このままでは、ハルカちゃんとの約束が、関係が……。

「ご協力感謝します。この男は私が責任を持って、署まで連行します。それでは!」

「くそ! 離せ! また、お前か! 国家の犬め! コンチクショウ!!」

 俺は暴れる田中敬一を無理やりパトカーの助手席に押し込み、すぐにパトカーを発進させた。そして、アイドルプロダクション『わっしょい』から数百メートルくらい離れたところで口を開いた。

「おい、田中敬一。おまえ、今回は見逃してやる。そのかわり……俺と友達になってくれ!!」

 心の善と悪の葛藤は、あっけなく悪が勝利した。いくら口で偽善を言おうと、人は自分の欲望を抑えることができない。だから、世界はいつまでも平和にならないんだ。

 俺は世界不平和の原因の一端と成り果てた自分自身を軽蔑しながらも、田中敬一と偽りの友情を交わした。