カシューナッツはお好きでしょうか?
37.ふけさん
「ところで、あなたはどちら様ですか? 何の用があって、めったに誰も来ない倉庫にいらしたんですか?」
「あえ……実は……そ、そう! 私はプロデューサーです。実は過去にボツになった音源を捜しに来たのですが……」
私はミミさんの問いに答えるため、とっさに嘘をついた。まぁ、いつものことだ。
「……それでしたら、こちらのダンボールにありますので、どうぞ」
ミミさんはか細い両腕で、大き目の段ボール箱を棚から下ろそうとした。私はミミさんの細い腕が折れてしまうのではないかと思い、ハラハラした。
「あぁ!」
案の定、ミミさんのか細い腕ではダンボール箱を支えることができず、棚の上からカセットテープが大量に入ったダンボール箱が落ちてきた。
「危ない!」
私はとっさに腕を伸ばし、ミミさんを抱きしめて落下するダンボールから守った。
「ありがとう……ございます」
ミミさんの顔が近い! う、美しい!
「あ、す、すいません……」
私はとっさのこととはいえ、ミミさんを抱きしめて恥ずかしくなり、直ぐに手を離した。
「ははは、あ! こ、これですね。では、いただいていきます。そ、それじゃ」
私はテレを隠すように、地面に散らばったカセットテープの中からテキトウに1つ手に取り、その場から逃げようとした。
「ちょ、ちょっと待ってください!!」
不意に、ミミさんに呼び止められた。もしかして、愛の告白かい? ベイビー。俺にほれたら、火傷じゃすまないぜ!
「何で全身黒タイツ姿なのですか?」
「……最新のオシャレです」
「私、これでも勤勉な性格でして、社員の方全員の顔と名前を把握しております。しかし、あなたのことは知りません。それに、あなたのその格好……まるで、映画に出てくるような泥棒にしか見えないのですが……」
私は直ぐに身をひるがえし、全速力で倉庫の出口に向かって走った。やばい、ばれた。
「あ、あの! ちょっと待ってください! これ……」
ミミさんは、か細い声で何かを叫んでいたが、私は聞こえないフリをして逃げ出した。
作品名:カシューナッツはお好きでしょうか? 作家名:タコキ